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それから、何となく――というか絶対ノーラ姫と仲良くなっていったライアンはある種の危機感を覚えていた。着々と友情を育てたのはいいが、最近では彼女の部屋でお茶をするだけに留まらずライアン自身の周囲を姫君自身が彷徨いている事が増えたのだ。
奴隷の仲間にその話をすれば、「友達が出来てよかったな」。と投げやりな言葉を頂いた。彼等にとっては面白い話じゃなかったようだ。
悶々と悩んでいれば、目的の資料室へ到着。獣人であり力が強いライアンはこうして畑仕事だけでなく資料運びなどの仕事も押し付けられる。一回で全ての資料を運べるので重宝されているようだ。
どうせ中に誰もいないだろうと高をくくって入ればまるでそれがフラグだったと言わんばかりに人影を発見――
「姫さん、何やってんですか?」
「・・・あ!やぁやぁ、ライアン。見ての通り、資料を集めているんだよ。ビューティフルな感じのね!」
「そうですか。ちなみに、ビューティフルな感じって何ですか?俺にはちょっと分かりやせんけど・・・」
こんな感じだよ、と嬉々とした顔で渡された一冊の資料。果物の図鑑だった。どこら辺がビューティフルなのか皆目見当も付かない。
これで何が分かるのだろう、と思ったがそういえば最初から彼女と感性を共有出来た事など一度たりとも無いので今回もきっと無理だろうと考えなおす。理解しようとするだけ無駄ならば、そういうものだと受け入れる他無い。
「仕事なのかな、君は」
「えぇ、そうですね。俺は力が強いんで、往復する時間が短くていいからじゃねぇすかね」
「ついでに背も高いからね!ところで少しお願いがあるんだ」
「背が高いって事と関係あることでしょうね。そう言うって事は」
察しが良くて助かるよ、とやはり笑ったノーラ姫は本棚を指さした。
「上から2段目にある、麦の資料を取って欲しいんだよ。私の身長じゃあ脚立使っても取れないからさ」
「他に誰かいなかったんですか?仮にもお姫様でしょう、ノーラ姫様」
「面倒だったんだよ。人を呼ぶのがね」
「そんなもんすか」
言いながら脚立に乗り、楽々と頼まれた資料を取る。生憎、彼女の為にそれを運んでやる事は出来ないがそれでもノーラ姫は微笑んでいた。
「いやいや、助かったよ。私も君ぐらい身長が欲しいものだね!」
「えっ。いやそれは・・・ちょっと、ビジュアル的に問題があるんで・・・」
「どういう事かな!?」
「不格好って事でしょうよ」
軽口を叩きつつ、頼まれた資料をかき集める。重い物を運ぶのは得意なライアンだったが、資料を探すのは苦手だ。
などと思っていれば、ノーラ姫が親切にも手伝ってくれた。こんな場面、見られたら即打ち首である。