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「君にはどんな風に世界が見えているのかな?」
「・・・はぁ・・・」
翌日。仕事に行くかと重い腰を上げれば小屋のドアの前にノーラ姫が立っていた。それだけでも驚きだったのだが、一体何が起きたのか。気付けばライアンは昨日の部屋へ連れて来られていた。
にこにこと屈託の無い笑みでそう問われ、ひとまずどうしてこうなったのかの考察を中断して姫君の質問の対する答えを考える。
考えて考えて、そうして出て来た言葉はこれだった。
「別に・・・普通ですけど」
「普通ね、普通。私と君の普通が同じなんて事は絶対に無いけれど、君がそう言うのならそうなのかもしれない。いやぁ、我ながら失敗だったよ、今の話題は!」
「そうスか」
げんなりと溜息を吐けばどうしたの、と朗らかな笑みで問われる。どうしたの、じゃねぇよがアンサーだ。
「あー、えっと・・・姫様は・・・」
「うんうん。なんだい?」
そこまで言って何を話そうとしていたのか出て来ない。だいたい、奴隷人生が始まる前に連んでいた仲間達とは無理に話題を探さなくてよかったし、奴隷になってからは人との会話を楽しむ余裕など無かった。
よって、いきなりこのコミュニケーション能力の高いノーラ姫と2人きりにされても話す事が無い、というのが現状である。
変な間が空き、焦ったライアンの目に布が掛けられた絵が入った。
「姫様は、人の絵を描かないんですね」
一瞬の間。いかん事を訊いた、それを自覚する程度に空いた間。
けれど、一瞬後にはノーラ姫は笑っていた、微笑んでいた。
「そうだね。まぁ、理由についてはおいおい話すかもしれないけれど・・・。私は、人物画を描くのが好きじゃないんだよ。美しくないからね。私は、見たものは見たものとしてしか描けない。多少美化する事はあってもゴミをどれだけ綺麗に描いたってゴミにしかならないでしょう?」
「・・・そうですか」
ところで、と明るくノーラ姫が話題を変える。
その先は何を話したか具体的に語る事はしないが、ただ一つ言える事は、こんな唐突に仕事をサボるような生活が一週間ほど続くという事だけだ。