2.





 太陽が照りつける、ある晴れた日。
 城内での仕事ばかりで太陽の光を浴びること無く日々を過ごしていたのだが、ようやく本当に久しぶりに外仕事が回ってきた。
 ――が、嬉しくはない。ちっとも。
 何故なら、外仕事の方が過酷だからだ。季節の変わり目だから、多分、農作業だ。

「暑い・・・暑い・・・」

 すぐ近くで桑を持ち、呟いているのは仕事仲間――それも、3人いるうちの1人。女性である。
 暑いのは当然だ。鉄の枷は日光を浴びて熱を持ち、じりじりと枷に触れている皮膚を焼く。暑くないはずがないのだ。それは、ライアンも同じである。
 ――しかし、彼女は頑張っている方だ。
 最初は自分達を含む、7人の奴隷がいたが、すでに2人倒れた。残っているのは5人だけだ。もちろん、人間の補給など無いので本来は7人でやるべき仕事を少人数でやっている事になる。

「・・・ん?何か、騒がしくねぇか?」
「あぁ・・・そうね」

 不意に顔を上げれば、軽度の農作業に精を出している一角――農民達の仕事場がにわかに騒がしかった。一カ所に集まり、何やらあれやこれやと会話声が聞こえる。
 良いご身分だ。こっちは汗水垂らして働いているというのに。

「あぁ?知らねぇ奴がいるな」
「・・・王女様が来たんでしょ」
「はぁ?」

 どういう事だと聞き返せばサボっているのを見られていないか確認し、女がひそひそと話し始める。

「外仕事をしているとね、ああやってたまに王女様が顔を出すの」
「何でだよ。訳が分からん」
「第四王女、ノーラ様よ。どうしてわざわざ畑なんかに来るのかは知らないけれど・・・」

 第四王女、ノーラ=アクランドは良くも悪くも有名人である。
 王と遊女の子、王族の恥曝し。
 常に奇妙な行動を取り、両親にも兄妹にも興味を示さない。ふらりと城から消えるし、他の王族達と食事を摂る事も無いらしい。
 そんな彼女は王族が住まう区域での生活が許されていない。
 ――彼女は、建てられてから随分経つ、薄汚い別塔にたった1人で住んでいるのだ。農民の家の何十倍も広いその別塔の権限は、全てノーラ姫のものである。

「俺は会った事なんざねぇが、随分ブッ飛んでる奴らしいな」
「そうね。あたしも、顔しか見たことないわ」

 ――それでも、と。女はまったく理解出来ないと言わんばかりの顔で首を振った。

「全てのものに興味が無いわけじゃないらしい」
「へぇ?ま、そりゃそうだよな。農作業にでも興味があんのかよ」

 いいえ、と女は首を横に振る。
 そうして理解出来ないとようやく口に出してそう言った。

「ノーラ姫様はね、絵を描くのがお好きなのよ。だからああやって、題材を探してふらふら城の外を歩き回っているの」