2.

「さぁ、何の話を聴かせてくれるの?」

 そうだな、と一瞬だけ悩んだ蘇芳だったが、次の瞬間にはまとめたのか、蕩々と語り始める。

「革命の国、エアリアナ王国の話をしよう」
「エアリアナ?」
「知らないのか。現在は大国の一つと数えられている国だが、少し前までは悪政で苦しんでいた国でもある」
「少し前、ってどのくらい前なの?」
「5年と少し前だ」

 ――最近過ぎるだろ。
 世の中に対しての認識が甘い私は彼の王国の事情など知らないが、それでも20年くらい昔の話だと思っていた。
 それを悟ってかそうでないのか、ベッドに腰掛けた蘇芳がこちらを伺う事もせず淡々と前置きを進める。これは聞く必要のある説明なのだろうか、と一瞬思ったが彼は無駄な事を嫌う人間なので必要なのだろう。

「今は廃止されているが、奴隷制度が罷り通っていた国だ。次から次に王族が奴隷を買い込む様は、俺もよく覚えている」
「そっか・・・5年とちょっと前、って言ったら蘇芳もとっくの昔に皇族としてぶいぶい言わせてる頃だもんね」
「その言い方は非常に気に入らないが、そうだとだけ言っておこう。現在、エアリアナ王国には若い王がいるが、その王こそが王国の英雄。奴隷制を廃止にし、悪政に手を染めた王族を皆殺しにした、な」
「うわぁ・・・穏やかじゃないな」
「当然と言えば当然の結末だろう」
「じゃあ、その英雄の話?色々尾びれ背びれが付いてそうだね」

 いや違う、と存外あっさりと蘇芳は首を横に振った。

「その様子だとこの有名な英雄譚も知らないようだが・・・。恐らく、反乱の話になってくるとお前は寝るだろうと思って、別の話を用意した」
「ねぇ。限りなく私の事、馬鹿にしてるでしょ?ねぇ」

 それには答えず、ぼんやりした顔のままに蘇芳は呟いた。

「今は皆殺しにされた王族と、獣人の奴隷の話だ」
「暗っ!寝る前になんて話をするつもりだ!?」

 言いながら、手の中に可愛らしいキャンドルを喚び出す。まだ火がついていないそれは、赤い蝋のキャンドルである。硝子の器に入っている。

「何だ、それは」
「何って・・・キャンドルだけど。今から話をするんでしょ?なら、これが無いと」
「それは必ずしも必要だとは、到底思えないのだが」

 蘇芳の言葉を無視し、パチリと指を鳴らす。途端、部屋の明かりが消え、代わりに手に持っていたキャンドルに火が灯った。可愛らしい炎の光に映し出された蘇芳の顔が、余計に訝しそうに歪む。

「暗闇っていうのは想像力を引き出す為に必要なんだよ。師匠も、考え事をする時はこんな状態で小一時間部屋に引き籠もるんだから」
「怪談でも始まりそうな雰囲気だな」
「ムードをブチ壊すのは止めてよ」

 話し終わったら蝋燭の火を消すんだよ、とそう言ってベッドの上に出したミニテーブルにキャンドルを置く。
 揺れる小さな火を眺め眇めつつ、静かに目を閉じた蘇芳が話し始めた――