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久々に――東瑛帝国へ来てとても久しぶりに、身に染み渡るようなじっとりとした恐怖を覚えて息を呑む。困ったような顔をしている不知火蘇芳が歩み寄って来た。忘れていたはずの怖気に支配され、足が動かない。
松葉くんの方は甘んじてお叱りを受けるつもりなのか、頭を垂れたまま微動だにしなかった。私とはまったく動けない理由の次元が違う。
顔が真っ青になっている私の正面で立ち止まった彼の手がぽん、と私の頭に乗る。そのまま鷲掴みにされてぐしゃっと潰されるのかと思ったが、それっきりすぐその手は離れていった。
「やり方にかなりの問題があったが・・・事件の犯人を捕らえる事に成功したのは、お前達のお陰だ。礼を言う」
「・・・んん?」
「思い切って日が沈んでから調査をしていれば、もっと早く突き止められたのかもしれないがな」
そう言って眉間を押さえる蘇芳は――困っているとか、それ以前にとても疲れているようだった。
茫然とその様を見ていれば、欄、と皇子様の双眸が輝いた。
隣では松葉くんも同じように顔を上げて固まっている。
「だが――それでもだ。ドルチェよ、俺はお前に『外へ出るな』と確かに言ったはずなんだがな」
「うっ・・・!いやその・・・ごめん、なさい・・・」
こういう時は素直に謝るに限る。カメリア師匠曰く、「ありがとうとごめんなさいが言えない人間は屑よ!ゴミの役にも立ちやしない!」らしいので。そこらへんは徹底的に仕込まれている。
案の定、蘇芳はそれ以上、私にもの申す事は無かった。代わり、その視線は松葉くんの方へ移る。
「それで、何故お前はここにいるんだ?」
「ドルチェが外へ行く、って言うから・・・面白そうで・・・着いて行ったんだよ。その、大事にして悪かったです、はい・・・」
「――松葉。お前はドルチェを止めるべきだった」
「ごめん・・・」
はぁ、と蘇芳が再び溜息を吐いた。
「帰るぞ。あぁ――あと、ドルチェ。お前は帰ってすぐに診てもらえ。その腕は折れているように見えるぞ」
「えぇ!?でも・・・そういえば、全然動かない・・・」
「折れているんだから当然だろう」
「でも、松葉くん達の方が怪我して――」
「近距離で戦う型の剣士は受け身が取れるだろう」
――そういう違い!?
折れている、という腕に触れてみる。酷く痛かった。