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あとはただの解体作業だった。少々グロテスクなので説明は省くが、全てが終わった後に残ったのは獣の惨殺死体だけだ。とんでもない。蘇芳曰く、「あまりにも大きすぎて一撃で首を落とせなかった。悪い事をしたとは思っている」だそうだ。
もともと赤かった煉瓦がさらに赤く、もう一時すれば赤黒くなるのだろう。酷い有様だった。空から降って来たのが雨ではなく血だったような。そんな印象。
図体に比例して体内を巡っていた血液量も半端じゃないのだ。それを解体すれば辺りが血みどろになるのは至極当然である。
何と声を掛ければいいものか、迷っていれば決まりの悪そうな顔をしていた松葉くんにタイミングを持って行かれた。
「一人なのかよ・・・?」
「あぁ。嘉保から連絡を受けて、すぐに来たからな。人を集めている暇など無かった」
「その件なんだけど」
どうしても気になったので私は口を挟んだ。皇族二人の視線が私に集まる。
「連絡、っていつの間に?誰が?嘉保の他にも人がいたって事?」
「いいや。伝令用の術式を持たせてある。必要な時に必要な魔力を与えれば起動する仕組みになっていて――いや、お前ならば口で説明するよりも見せた方が早いな」
「それじゃあ、いつ?いつ連絡なんて取ってたの?」
嘉保のどこか余裕そうな態度も、今思えば彼が来る事を知っていたからなのだろう。つまり、戦闘に突入した時点ですでに伝令を飛ばしていた事になる。
そんな私の疑問に応えたのはずっと顔を伏せたままだった嘉保その人だ。
「勝手な事と思いましたが、ドルチェ様が俺に掛けた魔法を解いた瞬間に。蘇芳様へ連絡しました。それが一回目」
「二回目、三回目があるってこと!?」
「はい。というか、連絡を取ったのは二回だけです。ドルチェ様が、他の魔道士の存在を見つけ出した時」
――成る程。事あるごとに連絡していたのか。
ならば、計ったかのようなタイミングで不知火蘇芳が現れたのにも頷ける。
「――嘉保。人を集めろ。この生物を調べなければならない」
「御意」
お先に失礼します、と律儀に頭を下げて、どこにそんな元気を残しておいたのか走り出す彼はとても輝いて見えた。これから宮廷へ帰って調査メンバーの編成を行うのだろう。ちょっと働き過ぎじゃないだろうか、嘉保。
ぼんやりとその後ろ姿を見送っていれば、松葉くんに軽く肩を叩かれた。
はっ、として顔を上げればじっと私を見る蘇芳の視線に気付く。
「さて――嘉保は仕事を真っ当しただけだから何の問題も無いが・・・お前達は、そういうわけにはいかんな」
――完全に忘れてた。
少し困ったような、やっぱりぼんやりした目の彼は小さな小さな溜息を吐いた。