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「――え?」
信じられない事が起きた。というか、信じたくないような、出来事。
赤い飛沫、飛び散る肉片――
「うっ・・・」
吐き気がこみ上げてくる。人間ミンチなんて、そんなものに私は耐性が無かった。魔女だったから人を殺した事なんて絶対に無いとは断言出来ないけれど、こうも酷たらしく人を殺した事なんて無い。
結界を張っているのに、血の匂いがここまで漂って来そうだ。実際、匂いなんて欠片もしないのだけれど。思い込みとは恐ろしいものだ。
「だ、大丈夫ですかっ、ドルチェ様!?」
はっ、とした表情で私の方を振り返った嘉保。彼は現場へ赴いたりと耐性があったのか、無惨なそれを目にしても顔色一つ変えない。それどころか、明らかに動揺し狼狽している私への配慮までしてくれる余裕ぶり。
「てめぇ、何のつもりだ!?」
怒号にも似た声を張り上げたのは松葉くん。彼もまた、顔色こそよくなかったが私ほどに動揺している様子は無い。慣れている、と言うよりは持ち前の冷静さの表れか。
――こちらの陣営は一切のダメージを受けていない。
つまり、全員、無事である。怪我一つしていない。では、何が起きているのか。
「あ?証拠隠滅だよ。俺等、魔道士だぜ?拷問なんざされたらあっさりゲロっちまうだろうが」
そう言ってフードの男は笑うでもなく、ただただ肩を竦めた。決まりの悪そうな顔をしているが、それだけ。それ以上の感慨は何も抱いていないらしい。
「強いて何が悪いか挙げるのなら、てめぇ等が強すぎるのが悪い。正直、そっちの魔道士の女なら気付いてるだろうが、この術式は展開したところで規模は小せぇ。試作段階だからな」
つまり、と自嘲気味にフードの男は嗤う。
「展開したところで、勝てる見込みは薄い。一般人を殺しに殺したって、てめぇ等みたいな戦闘集団をも殺せるとは限らない」
そうなると、起動した術式は逃げる為に使用する事となる。その際、倒れて動けない仲間を魔道士3人で担いで逃げられるはずがない。
――だから殺した。目的を知られてはならないから。
術式展開に全力を注いでいる魔道士2名も、そのことについてフードに意見したりするなんて事は無かった。ただ黙って、自分の作業を続けるのみである。
「――とりあえず、あの獣をどうにかしましょう」
「おう。だが、数が多いな。こういう戦闘時、真っ先に叩いておくべきは補助だぜ?絶対にドルチェの方に行くだろ」
「しかし、手の施しようがありません。俺達は、これだけの人数しかいないのですから」
先程まで気を失って地に伏しているだけだった魔道士2人を噛み殺し、食い殺した、獰猛な獣の双眸がこちらを向く。すでに黒い獣は黒くなかった。月明かりを浴びて、真っ赤に輝いている。
同胞の血を吸った毛。それを身体を震わせて水切りした獣は今度こそ間違え無く、私達を目指して歩を進める。
最初は確かめるようにゆっくり、次第に速度を上げて、そしてトップスピードへ。音も無く、山犬のような遠吠えと共に。