3.





 一旦、戦況が落ち着いた。というのも、戦闘員としての魔道士はフードの男だけになったわけだが、彼は迂闊に攻撃を仕掛けて来なかったのだ。そうすると、こちらも警戒するので自然、膠着状態へ陥る。
 他4人の魔道士達と比べ、フードは冷静だった。戦闘慣れしているのかもしれない。私に戦闘経験はほとんど無いので、恐らく経験上だけの話しならば彼の方が数倍上である事だろう。
 倒れた仲間2人を見、舌打ちする。

「何のつもりだよ、てめぇら」
「そのままこっちの台詞だぜ、それ」

 ぎんっ、と眇めた目をフードの男に向ける松葉くん。爛々と輝くその瞳はやはり、不知火蘇芳と似ていて兄弟である事を痛感させられる。
 ――しかし、呑気に会話している場合では無い。

「時間稼ぎだよ、松葉くん!術式を展開される前に、そいつをどうにかしないと」
「ドルチェ様。もし、あの術式が展開された場合、どんな魔法でどんな被害が出るのですか?」
「分からない。私、術式なんて扱った事無いから・・・。師匠達が使ってるのと比べると、かなりちっさいけどね。それに――こう、見た事の無い記号が多すぎる」

 そう――魔法を嗜む者として最低限知っている術式記号。持ち合わせている知識のどれにも当て嵌まらないその記号は一体何なのか。
 とても嫌な予感がするし、術式は基本、『展開させない』がスタンダード。発動した後の事など考えるだけ無駄である。

「ちっ・・・そっちの女は何なんだよ・・・なんで剣士なんかと連んでやがんだ。魔道士なら、剣士と共闘なんてすべきじゃねぇよ」
「偏見だぜ。別に意識してパーティー組んだわけじゃねぇんだよ。気付いたら、こうなってた。それだけだ」

 意味が分からない、とフードの男が首を振る。確かに、行きずりで集めたメンバーにしてはバランスが取れた面子だろう。
 盛大な溜息を一つ吐いたフードがぴゅい、と短く口笛を吹く。

「気をつけて!あの人、猛獣使いだよ!!」

 何だって、と嘉保が聞き返す前に茂みの中から真っ黒い犬のような生き物が4匹。姿を見せた。
 犬のような、というのはその犬が大型犬よりもなお、一回りは大きな犬だからだ。あまりにも大きすぎる。

「猛獣使い、とは何ですか!?」

 出て来た生き物を怪訝そうに見やり、嘉保が首を傾げる。
 結界を張り直しながら、私は説明する為に口を開いた。

「生き物に命令して操る事で攻撃してくるタイプの魔道士のこと。魔道士の中で唯一の物理アタッカーなんだ。魔道士殺しの魔道士、って感じ。魔道士が張る結界は物理的な攻撃に弱いからね」
「そうですか。でも、心配要りません!貴方様は、後ろで俺の戦闘を見ていてください!」

 おい、と不機嫌そうな声を上げたのは松葉くん。当然だ。今の言葉だと、まるで彼などいないかのようである。

「俺はどこ行ったんだよ!?」
「皇族である貴方様の手を煩わせるわけにはいきませんから!」
「今更!?」

 緊張感がまるで無い――というか、バランスの取れたこちらのメンバーに対し、有効打が無い魔道士達など緊張するに値しないので、緊張もへったくれも無いのだが、その様を見て不愉快そうにしているのは例の猛獣使いである。
 団欒としている私達を見て、舌打ちした彼は腕を上げ、行け、と言わんばかりにその腕を振り下ろす。
 それが――合図。
 鎖を外された獣のように、夜に溶けるように黒い4匹の犬達が一片に、一斉に、駆けだした。