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突然の来訪者に一番に反応した魔道士は一人だけフードを目深に被った男だった。手に持っていた杖を躊躇い無くこちらへ向ける。濁った白い鉱石が月の光を吸収して鈍く輝く。
その行為に対して直ぐさま反応する。明らかに攻撃を仕掛けて来ようとしているからだ。
「下がって!」
取り出した杖を軽く振るう。急場凌ぎで創り上げられた攻撃魔法を防ぐには、それだけで十分だった。無数の小さな火の玉は不可視の壁によって弾かれ、派手に火の粉を撒き散らして大気中に溶ける。
花火のように散った火の粉が消える頃には、街は再び静寂を取り戻していた。
「ちっ・・・。完全サポート型魔道士、か?」
鬱陶しそうに舌打ちしたフードの男は、背後で術式作りに躍起になっている仲間を視界の端に入れた。フードの男が減り、4人での術式作成。しかし、彼の視線に気付いた魔道士2人が黙ってフードの隣に並んだ。
ふん、と鷹揚に鼻を鳴らしたフードの男が術式側に残った2人に言い放つ。
「いいのかよ、2人で」
術式側に残った片方が無言で頷いた。そして、深々とフードに頭を下げる。
「術式そのものは出来上がっているので、あとは展開するだけです。それまでの、時間稼ぎを」
「分かったよ。いいから、さっさとやれ。丁度良い、実験台もいる事だし」
目深に被って見えないはずの双眸は、確かに私達の方を向いていた。
フードの男が数歩下がる。脇に控えているのは術式班から離脱した特徴の無い、2人の魔道士。
――彼等に、私達はどう見えているのだろうか。
私が魔女だということには考えが及んでいないようだが、松葉くんと嘉保はどこから見たって剣士だ。彼等の戦闘姿を見た事は無いが、きっとそうだと私ですら思う。やはり、それは相手にだってそう見えているのだろうか?
そんな取り留めのない考えを遮るかのように、フード男の声が響く。
「一気に叩くぜ!接近戦は不利だ。間合いを詰められれば、俺等に勝ち目はねぇ!」
それは正鵠を射ている命令だ。弾かれたように魔道士2人が頷き、数歩後退る。その様だけ見ていれば臆して立ち向かう意志すら無くしたように見えるが、少しでも近づけば間合いを広げるという意思表示に他ならない。
「突っ込みますか?魔法を発動し始めると厄介です」
「距離取られたままだとキツイな。まずは、この間合いを、潰す」
「じゃあ、私はサポートに回るって事で・・・私も、相手との距離は遠い方が良いタイプだし」
警戒する魔道士達を相手に、私達が出した結論はただの正攻法であり、もっとも手堅い策だった。いや、策という言葉は相応しくないかもしれない。何故なら、それは当然の選択だったからだ。
差し出された選択肢は、一つしか無かった。だから、それを選んだ。
――こうして鑑みると、とても褒められた選択ではない気さえする。
大袈裟な程に離れている魔道士達。すでにこちらの事情など気にもせず、詠唱に入っている。大規模な術じゃなく、最低限、人を殺せる程度の魔法なのだろう。
「頼むから、本当、しっかりしててくれよ。俺等の命はお前の結界に掛かってんだからな!」
「誰に言っているんだよ、松葉くん」
表情が限りなく曇っている剣士達を元気づけるように、私は大袈裟に大仰に、胸を張って見せる。
「――私は、魔女だよ。魔道士風情に負けるわけないでしょう」