3.





「・・・そろそろ、引き上げましょう」

 何とも形容し難い空気に水を差したのは嘉保だった。彼の顔色もあまり良くない事から、処理班にいたのは嘉保だった事が伺える。彼も、仕事をたくさん担当しており、日々労働に精を出しているのだろう。
 それにしたって――ずーっと、喋らず黙っていたのは不気味だったが。

「ちょっと待って。そこの瓦礫を退かしてから」

 何だか光っている物を瓦礫の下に見つけた私はそう提案する。一番に駆け寄って来たのは嘉保だったが、すぐに松葉くんが追い付く。

「あ、手伝ってくれるんだ。松葉くん」
「はぁ!?お前の為じゃねーよ!一人でやるより、二人でやった方がいいだろ!」
「いいんだよ、私がやるつもりだったし」
「うっせーな!鈍くさいお前が手伝ったりなんかしたら、倍時間掛かるだろうが!!」

 うん、面白い。辛気くさい雰囲気が嫌いだったから何となく松葉くんをからかってみたけど、思った以上に楽しかった。
 ――が、確かに長居したくはない。
 2人掛かりでも辛そうだったので、魔法で援護しようと意識をそちらへ向ける。
 魔女が魔法を使用する際、大掛かりなものでなければ杖とか魔力補正装置は必要無いのだが――力点とか作用点とか、そんな感じの原理で体内の魔力を一点に集中させなければならない。
 例えばカメリア師匠ならば、彼女は魔女の中でも珍しい右利きだったので基本的に魔力を右手に集める。某ツンデレの同僚は差し出した両手をイメージした、つまりは体外に。
 そして私は、額の辺りに集めるのが基本だ。つまり、人によって集中点は違うのだ。それすらも魔道士にとってみれば理解し難い現象らしいが。
 魔法道具という、魔法を使う際に使用する――杖などがあるが、基本的には天然の鉱石を削りだした装飾が施されている。というのも、天然物には魔力が集めやすいのだ。リアディ村にいた頃は、私も魔女らしく額の辺りにルビーのアクセサリーを着けたりしていた。
 ――で、何が言いたいのかというと、魔力を集めるように意識した刹那、気付いた。遅すぎる程に遅い段階で、気付いた。

「んん・・・?可笑しいな。外に人がウロついてるはず無いのに・・・私以外に、大魔法を使おうとしている誰かが、いる・・・?」
「えっ!?」

 驚愕の声を上げたのは自称、頭脳派である松葉くんだった。彼は聡い人間だったので、すぐ私が言わんとする事の意に気付いたのだ。遅れて、嘉保も合点がいったようにその顔を驚きで染める。
 それからの彼等の判断力は目を見はるものだった。
 瞬時に状況を理解、判断する。

「ドルチェ、行け!お前しか場所分かんねぇ!そいつら、絶対怪しいだろ!」
「こっちだよ!」
「前を走らせるご無礼をお許しください」

 身を翻し、ドアを開け放って外へ。
 大規模魔法を使おうとしているからか、その方角は手に取るように分かる。そう遠くは、ない。