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今日事件が起きた場所。《華顛》郊外にぽつんと一軒だけ建っている小さな家。というか、まるで小屋のようだ。家族3人で住むにしたって少々手狭な感じがする。
当然のように中へ入ろうとした私を制したのは松葉くんだった。顔色があまり良くないような気がする。
「おい・・・まさか、中、完全に放置とかそんなんじゃねぇだろうな」
「片付けは済んでいますよ。ただ、家具なんかは放置していますが」
「そうか、なら、いい」
何事も無かったように松葉くんからのゴーサイン。私は首を傾げたが、すぐにその真意を知る事になる。
立て付けの悪いドアを開け、中へ。
「うわぁ・・・」
外からの角度では見えなかったが――それは最早、室内と呼ぶには些か無理のある状態だった。何せ、屋根があるはずの場所から綺麗な星空が見える。そしてもちろん、吹き抜け状態になっているので寒い。吹きっさらしである。
家は半壊状態だった。屋根の半分が室内へ落ちており、家具なんかは残らずひっくり返り、壊され、原形を留めていない。
ドアの立て付けが悪いのは当然だ。家の構造そのものが歪んでいれば。むしろ、すんなりドアをドアとして使えた事の方が驚きである。
その惨状は――まさに、巨大な『何か』が暴れ回った跡のようだ。
「酷ぇ有様だな・・・しかし、どうしたらこんなに壊れんだよ。剣士にゃ無理な所行だぜ、確かにな」
「俺としては魔道士が、こうも純粋な破壊行為に従事出来るのかも疑わしいですけどね」
「そうだね」
私は嘉保の言葉に頷いた。
彼の言葉は正鵠を射ている。魔道士が破壊に破壊しようと目論むのならば、炎魔法が有効だ。純粋に破壊に向いていると言ってもいい。
ただ――炎の魔法を使うということは、焦げ跡や家が全焼していたって何ら可笑しい事は無い。しかし、この現場はどうか。
「まるで――そう、まるで、家を半分ぐらいぐしゃ、っと潰しちゃったみたいな状態だよね。魔法なんて、使わずに。どちらかと言うと、筋力系の獣人がなりふり構わず全力で暴れたみたいだ」
「剣士だったのなら、この破壊跡が刃物傷になるだけだろうな。この家を潰すだけなら、ちょっと腕の立つ奴なら可能だろうし」
「もっともです。現在、調査兵もその方向で進めていますよ」
――これ、案外外れじゃないかもしれない。蘇芳に冗談半分で話した『生物兵器』説。どうやってそんなものを創るのか、という論点を除外して考えるのならば。
それにしても、と呟くように壊れた家具を撫でながら松葉くんが天を仰ぐ。
「意味、分かんねぇよなあ・・・普通の、家族なんだろ。ここに住んでたのは。真意が分からねぇよ。何を考えてそうしたのか、ちっとも理解出来ない。何だろうな、意味なんてねぇのかな。だったら、やられた方は堪ったもんじゃねーだろうな」
そう――何よりも、問題なのは。
この惨状が、一体何を示唆しているのか見当も付かない事だ。どうしてこんな事を、とまさに口に出して問いたい気分である。