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失礼します、と無事に報告を伝え終えた嘉保が去り。部屋に静寂が戻って来る。不知火蘇芳も何か考え込んでいるのか黙っているし、私自身も先程の情報を脳内で処理するので精一杯だったからだ。
何で残酷な事件なのだろう。
去り際にぼそっと嘉保が呟いた言葉を、私は聞き逃さなかった。きっと彼は調査員として凄惨な事件現場へ立ち会ったのだろう。微かに纏った血の匂いでそれはすぐに分かった。
――敢えて違う観点からそれを見るのであれば。
それはつまり、すぐ報告する為に蜻蛉返りして来た彼の服や身体にすら、血の匂いが付着する程に、現場は血の海であった事が伺える。多少の出血量では鼻が良い訳でもない私に気付くような匂いをまといはしないだろう。
とても、正気の沙汰とは思えない事件なのだろう。
少なくとも――私は、そう思う。というか、犯人像はまったく浮かばないが、どういう種の人間であるのかは薄々予想出来る。
まず間違い無く、魔道士だろう。或いは魔女かもしれない。こういう、『人間の手が加えられた』ように見えない死に方は、魔法でこそ実現が可能。
そこから言えば、皇居内の人間が私を疑うのも無理ない事だと言える。
私は――私は、その犯人、会ってみたい。
それが興味である事は否定しない。興味本位の無謀な望みである事も、認める。けれどそれでも、こうして他者を惨殺しうる魔道士或いは魔女という、自分に何よりも近しい人間に会ってみたかった。
訊いてみたかった。
――「何を目的に、どうして、そんな事をし、それは貴方にとって一体何になるのか」と。小説のネタにもなるだろうし、恐らく私を人間的にも成長させるであろう邂逅を果たしたいと切に思った。
「――ドルチェ」
不意に呼ばれた。
物思いに耽っていた蘇芳がいつの間にか、私の肩に手を置いている。そうして、ぐっ、と顔を近付け酷く恐い顔で彼は言った。
「外には、出るなよ」
その時の私は、「分かってるよ」と答えたようだったし、「うん」とだけ答えたのかもしれない。
ただし、その言いつけを守る気は一切無かった。
――そして、そんな私の心中を見透かし見通し予見していた蘇芳の視線など、それにも気付かなかった。