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そんな私達の不穏過ぎる会話に割り込んだのは、激しいノックの音だった。一度エリザ嬢にされた時よりも焦りが見えるそれに、蘇芳と顔を見合わせる。
一瞬の沈黙、その後皇子様が「入れ」と一言だけ言う。
外に立っていたのは嘉保だった。額にうっすら汗を滲ませ、微かに荒い息を漏らしながらも、ひれ伏し、蘇芳に対する礼を尽くす。
「報告に参りました・・・ッ!」
悲壮に、まるで幽霊にでもあったかのような蒼い顔でそう言う従者。通常時ではあり得ない光景にさしもの蘇芳もぼんやりとしたその瞳を収め、代わりに仕事モードと思わしき皇族にたる威圧感を持つそれへと変わる。
「ドルチェ様も、そのままお聞き下さい」
「――ならば、何があったのか話せ、嘉保」
御意、と深く一礼した彼が跪いたままに口を開く。
「再び事件が起きました」
「えっ!?」
「《
「え?え?」
分かっているように頷く蘇芳の隣で私だけが首を傾げる。恐らくは彼等間では通じる報告だったのだろうが、私にはまったく意味も分からなかった。
唯一分かるのは《華顛》というのが少し前に紫苑ちゃんと行った商人達が行き来する街だという事だけだ。一家が全滅したとか、何の事件だ。今、処理に追われている例の案件と同じという意味か。
私のそういう視線を汲んだのか、すいません、と心底すまなそうに嘉保から謝られた。自分の無能で他人に謝らせるというのは些か悪い気がする。
「先の事件と同じ事件です。なんせ、被害者3名は全員、腹部を食い千切られたような傷跡がありましたから」
「ま、まさかの連続殺人に発展・・・!?恐いな、外は」
何て恐ろしいところなんだ、街は。一時行かないようにしよう――
すいっ、と蘇芳が一歩前へ出た。眉間に皺を寄せ、少し神経質そうな顔をしている。
「被害者はどんな人間だ?」
「母親と息子と娘です。母親の方は40代半ば頃、健康な女性。息子は今年で14、5歳。娘は12歳だそうですよ。綺麗に頭が残っていたので人物特定も済んでいます」
「――俺も向かった方がいいのか、それとも後処理をしている最中なのか」
「現在、死体処理の最中です。報告に来ただけですので、貴方様が外へ出る必要はありません」
これで、2件目。計7名の犠牲者が出ている。それも、全員が全員、腹部を食い千切られて。これが同一犯じゃないわけがない。
気付けば、私は嘉保に尋ねていた。
「それって、やっぱり女性の遺体の方が損傷が激しいとか?」
「え?はい、そうですね。特に娘の遺体は酷かった。一囓り、なんて話しじゃありませんでしたよ」
凄惨にして悲惨、残虐の限りを尽くしたようだった、と。嘉保はそう語って目を伏せた。あまり思い出したくない光景だったのかもしれない。