1.





 事件が起きて3日経った。相変わらず皇居は騒がしいし、犯人が捕まったという報告も聞かないので、調査団はこのところずっと忙しいようだった。
 事件の犯人捜しに追われているそうだが、見つかるのだろうか。
 ――本当に人間、なのだろうか。獣だっとしても、何の?まさか街の近くに虎が出没するなんてあり得ないだろう。

「私は、獣が犯人だとは思わない」

 それが結論だった。事件の話を聞いたその日は不知火蘇芳は違うようだったが、私だって凶暴な肉食獣の仕業だと思っていた。けれど、冷静になって考えてみればそれは少し薄い可能性である事も、理解した。
 何故なら――犯行を行ったのが本当に獣であったのならば、もっと綺麗に獲物を食すはずだからだ。獣は、獲った生き物で腹が満たされれば、それ以上は狩りに出たりしないのだ。生物的本能で。

「獣と言うより、歪んだ愉しみ方を知っている人間の線が強いかもね。だけど、それも私は当て嵌まらないと思う。だって、魔道士だって魔女だってあんなグロテスクな殺し方、普通はしたくないでしょ」

 獣人かとも思ったが、彼等彼女等は料理された物しか食べない。生肉に齧り付くような獣とは違うのだ。多少、生まれ持った能力が違うだけで、立派な人間なのだから。
 彼等の腕力には目を見はるものがある。しかし、それでも不自然に腹部の部品だけが消えるのは納得出来ない。
 だとすると――

「人為的に創り出された怪物、とか?例えば虎を倍の大きさにすれば、食べる量も倍だし、強さも倍なんじゃない?私はやった事無いけれど、獣を自然の摂理を考慮外において二倍の大きさに成長させるなんて簡単に出来ると思う。
 私に出来るという事は、魔道士が何人か集まって術式を組めば、不可能じゃないって事。魔女が犯人の線は薄いよね。絶対数が少ないし、そんなんなら獣を街へ放つより自分が働いた方がリスク少ないから」

 魔女という種には魔女しかいない――というか、魔道士の派生こそが魔女なのだが、つまり魔女という枠からさらに枝分かれする事は無い。
 ただし、魔道士には種類がある。
 攻撃魔法を使う魔道士、回復術を主に使用する魔道士――そして、魔道士の派生である一つ、『猛獣使い』。獣を従わせる能力を持つ魔道士達だ。数も少なくなく、パーティー内に1人いれば重宝する。

「魔道士同士の集まりだと、必ず1人は猛獣使いがいるんだよね。なんていっても、獣の力を使用するとはいえ、貴重な物理アタッカーだから。魔法は魔法道具とかに阻まれて通らない事があるけれど、獣の物理的な腕力は物理的に結界で止める他無い訳だし。対魔道士において強いのは猛獣使い」

 ――だからこそ、重宝される。何よりも訓練を積めば、程度に差こそあれど誰でも等しく扱えるタイプのジョブだ。
 現に、リアディ村にだって猛獣使いはいた。ただ、そういう役目を担っているだけだと彼女は嘲笑していたが。というより、必要じゃなければ普通に魔女だったが。

「猛獣使いに恨みがあるわけじゃないけど、でもやっぱり魔道士が集まって生物兵器の研究をしているのなら、黒幕はそういうタイプの魔道士になるんだよね。創っても、思うように操れないのなら意味は無いわけだし。
 そういうわけで、結論。私は、魔道士の団体が犯人であり、その中に1人は猛獣使いがいて、生物兵器を創り試運転をしている――どう?なかなか筋が通った意見じゃない?」

 そうして私は、今までの話を聞いていただけの――不知火蘇芳にそう尋ねる。彼は、深く考えるように閉ざしていた瞼をゆっくりと開き、深紅の瞳で朗々と語っていた私という魔女を見た。