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「ドルチェ様、あまり外出なさらないようにしてください」
不意に一層顔色を暗くした凛凛がそう言った。意図が分からず、何故かと問い返す。彼女が私の身を案じてそういう発言をしているようには、どうしても思えなかったのだ。
「――貴方様は、皇居内で一部の方々に疑われています。犯人は、魔女じゃないかって」
「え?いや、昨日は私、ずっと部屋にいたんだけど・・・」
「お前のアリバイは俺が保証している」
口を挟んだのは蘇芳だ。不機嫌そうに眉根を寄せている。
「もちろん、ちゃんとそう言ってある。そもそも、犯行時刻はドルチェは俺の部屋にいただろう」
「・・・蘇芳さん蘇芳さん。それ、もしかして、エリザ嬢の前で言った?」
「そういえばいたな」
あからさまな敵意の理由が判明。いつにも増して冷たかった彼女はつまり、昨日私が不知火蘇芳の部屋で一泊した事を知っていたのだ。別に何も無かったが、それは当人間でしか確かめようのない事であり、話だけ聞けばそう思われても仕方が無い。
さすがの凛凛も絶句し、やや非難がましい目で皇子様を見ている。
――しかし、やはり次期皇帝と囁かれる事だけはある。何処吹く風、といった体の彼はまるで気にしていないようだった。
そして、あまり気にもならない話だったらしい。脱線した話を、元に戻す。
「虎だと言う奴もいるが・・・どうだろうな。俺は、そうは思わない」
「では、人間の仕業だと?あんなに、おぞましいものが?」
「――さぁ、な」
意味ありげにそう言う蘇芳が凛凛から視線を外した。彼の鋭い双眸に写っているのは間違い無く私だ。
「断定は出来ないが、女性の方が狙われやすい――かもしれんな。というより、現場を見た人間は分かるだろうが、女の遺体の方が酷い有様だった」
「・・・つまり?」
すぅ、と蘇芳の双眸が細くなる。眇められた目はさながら、細い針のようで恐ろしい。威圧感だけならば、きっと一国の王にも匹敵するだろう。
まるで、子供に言い聞かせるような妙な強制力で、次期皇帝は言い放つ。
「――外を出歩くな。絶対に」
小心者の魔女はただ頷く事しか出来なかった。