4.





 何だかやや沈んだ気分でもう部屋へ帰ろうと思っていた時だった。何か部屋の前に人が立っていると思えば朝以来姿を見ていなかった凛凛に不知火蘇芳の姿があった。
 ――んん・・・?あれ、蘇芳、何かあれ、剣持ってる・・・?
 室内なのに武装している姿は一種異様だった。2人が放つ雰囲気もピリピリしている。頼むから別の部屋の前でやってくれないか。中へ入れないだろう。
 ――「魔女狩り裁判が始まるのを心待ちにしているから」。不意に、エリザ嬢のそんな言葉が脳裏を過ぎる。何かした記憶は無いが、冤罪というのは今時珍しい事じゃない。だとすると、彼がそこに立っているのは。
 足を止めた私の気配に気付いたのか、ふと蘇芳がこちらを向いた。いつものぼんやりした目は形を潜め、爛々と獲物を狙う肉食獣のような鋭い光を放っている。触れれば血が噴き出しそうだ。
 はっとした顔の凛凛が胸の前で手を合わせた。少しだけ安堵した表情をしている。

「丁度良かったです、ドルチェ様。貴方様にお話が!」

 困惑した顔をしてみせれば、蘇芳がゆっくりと手招きをした。
 仕方が無いので2人の元へそっと歩み寄る。

「どうしたの?何か雰囲気が恐いんだけど・・・」
「武装しているのはさっきまで外へ出ていたからだ。気にしなくていい」
「そう?・・・皇居内が騒がしいけど、それと関係ある?」
「ああ。説明しろ、凛凛」

 畏まりました、と恭しく一礼した凛凛が事務的な口調で語り始める。恐らくは、嘉保が不知火姉弟に話していたのと同じ内容を。

「街で惨殺死体が4つ見つかりました」
「えっ!?ざ、惨殺?」
「はい。そうとしか形容が出来ない程に破壊されていまして・・・」

 少し言いにくそうに顔をしかめた後、侍女は意を決したように、語る。

「なんでも、腹部が食い千切られたように消失していたそうです。4人の犠牲者のうち、3人が女性で――」

 彼女の言葉をまとめるとこうなる。
 見つかった遺体4つは全て腹部に食い千切られたような傷跡があった。というか、内臓をごっそり持って行かれているので間違い無く『喰われた』のだろう。犯行は死体の状態から見て夜中。
 そして――何より、犠牲者の半分以上が女性。それが偶然であったのか、必然であったのかはともかくとして。

「食い千切られていたような、って・・・つまり?」

 漠然とした言葉だと思った。それは、獣の仕業とでも言いたいのだろうか。
 説明を引き継いだのは現場を見て来たのであろう、蘇芳だった。

「人間の腹部を一口囓って放置したような有様だったと言う事だ。それが、何かの武器を使用してそうなったのか、或いは獣の仕業なのかは調査中だがな」
「猟奇殺人、ってことか」
「そうだ。だが――俺は、出来るのならば獣の仕業であって欲しいところだな」
「えっと、それは、どうして?」
「他国の人間が造った武器であったのならば、もっと複雑な問題になる。何より、戦争に発展する可能性すら出て来るからだ」

 ――戦争好きで、無愛想。
 無愛想の部分はともかくとして、戦争好きという面に関しては噂だと思っていたが、そうでもないらしい。
 不知火蘇芳の欄と輝く双眸は、確かに愉しさを喜ぶ色を持っていたから。