4.





 もやもやとした気分のままに敷地内から外へ出る為の門がある付近まで歩いて来てみる。とくに理由は無かったが、街へ出る為に初めて見た表門は思った以上に荘厳で壮大で、私のお気に入りの景色でもあった。
 ただし人の出入りが激しいので、思い悩んだ時に向かうのはあまりお勧めしない。ゆっくり思考するどころか、『第一皇子の正室』より下位の方々に礼されて挨拶されてと落ち着く余裕は一切無いからだ。

「んん・・・?」

 ――しかし、その日の人の集まり方は少し異常だった。もともと人が多い場所ではあるが、それにしたって、集まり過ぎだ。
 門の前でたむろしているわけじゃない。
 門のすぐ横で何か話している人間がいて、それを取り囲むように外へ出る人と帰って来た人が群がっているらしい。
 ここまでくれば世間に疎い私でも分かる。
 恐らく、何か緊急事態でも起きたのだ。ということは、やはり朝、蘇芳の部屋から逃げるように自室へ帰って良かった。今頃は彼も事態の収拾をはかる為に駆り出されているだろうから。
 ――と、不意にとん、と肩に手が置かれた。驚き、置かれた手を見る。
 白い、華奢な手だった。これは――

「こんな時にお散歩なんて、正室様は呑気でよろしいわね」

 ――うわぁ・・・会いたくない人に会っちゃったな・・・。
 敵意の篭もった声。隠しもしない棘をふんだんに含んだ言葉は今、あまり聞きたくないものだった。

「・・・どうも」

 エリザ=ノープル。蘇芳の側室であり、私に対して敵意と嫌悪を持つ女性。
 いつまでも背を向けているわけにもいかず、とりあえず彼女の方を見てみれば口元を袖で覆い、ゴミでも見るような目で私を見ていた。
 初めて出会った時こそ声を荒げ、怒鳴りつける事で他者を威嚇していたエリザ嬢だったが今日はまだ穏やかだった。表面上は。しかし、次の瞬間に吐き出した言葉はやはり悪意だった。

「ねぇ・・・あれ、あんたの仕業なんじゃない?あたし、絶対にそうだと思うのよ」
「はぁ?何の話?あの人混みが私のせいだって?いやだな、人を集める魔法なんて使ってどうするの」
「しらばっくれないでよ」

 ぴしゃりとそう言い、怒りではなく嘲りの笑みを浮かべる。

「とぼけちゃって・・・。まぁいいわ。あたしは、魔女狩り裁判が始まるのを心待ちにしているから。うふふ、あんたがこんな所へ来るのが悪いのよ。人外が」

 一方的にそう告げた彼女はあっさり踵を返す。それ以降、振り返らなかった彼女の背を見えなくなっても茫然と見つめる私はさぞ滑稽だった事だろう。