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自室へ帰った私はすぐさま凛凛を召喚、憔悴しきって椅子に腰掛けていた。やって来た侍女は主の疲れ切った姿を見て絶句している。
「な、何があったのですかドルチェ様!?」
「わ、わわわ私・・・!昨日、一晩・・・どうやら皇子様と・・・!」
「えぇ?いや、何がいけないのですか?夫婦じゃありませんか」
真っ青な顔でそう訴えても彼女は不思議そうな顔をするだけだった。
「構わないでしょう。致していたとしても、貴方様と蘇芳様は夫婦なのです」
もう一度言い聞かせるように言われ、だんだん落ち着いてくる。しかし、蘇芳も蘇芳だ。寝ているのならば、もっと頑張って起こせ。何でそこで放置という選択肢が当然のように存在するのか甚だ疑問である。
――そして、凛凛。彼女は私の乙女的な恥じらいをまったく理解してくれない。それどころか、既成事実が出来て喜んでいるようにしか見えない。
「うう・・・」
「私、蘇芳様に認められた方に仕えられて幸せです」
「いや、そういう使用人魂はいいからさ・・・。えぇ・・・何かショックだな・・・」
「お嫌なのですか?」
少し困った様子で問われる。しかし、当然だとしか答えられない。もともと、村にそういう風習は無いのだから。
私は世間知らずだ。それだけは断言出来る。皇居内で、この箱庭で育てられた姫君よりも、1日の大半をここで過ごす使用人よりも、私は無知で教養がない。
「そう、ですか・・・。すいません、騒ぎ立ててしまって。なら、私の話を聞いてくださいませんか?」
「え?何かあるの?」
「はい。ドルチェ様に要らない疑惑を持たせまいと黙っていましたが・・・そのお召し物は、着直しをしたのですか?」
凛凛が私に渡した寝間着よりも上等な薄手の着物。
そういえば廊下を走って部屋まで帰って来たが――その間、着物を手直しした記憶は無い。
「ならば、昨晩は何も無かったのでしょう」
「・・・何故?」
「何かあったのでしたら、少なからず服が乱れに乱れ、髪ももっと振り乱して大変な有様になっているはずです」
「・・・そ、そっか」
言われてみれば、確かに。私は眠っていたのだし、勝手にそう決めつけたが、何も無かったという可能性もなきにしもあらず。だって私は昨日の事を知らないのだから。
「あー・・・よかったなぁ・・・」
「・・・そうですね」
安堵し深く息を吐く私を見て、凛凛は何とも複雑そうな顔をしていた。