3.





「んー・・・」

 小鳥の鳴き声に、顔へ降り注ぐ朝日。
 実に良い目覚めだった。女の子ならば誰しも憧れるらしい、朝の出迎え方。
 ――いや、というか、末端冷え性の気がある私にしては全身が等しく温かい。だから知らず知らずのうちによく眠れたのだろう。前々から、凛凛に少し寒いから湯たんぽを貸してくれと頼もうと思っていたのだ。
 しかし、まだそんな勇気が出ず、彼女に湯たんぽ持って来いなんて言った覚えは無いのだけれど。
 そこで初めて閉じていた瞼を開ける。

「え」

 目が合った。
 黙ってまんじりともせずこちらを見ている両の目と。紅い、瞳と。彼は何故か私の真横に横たわっている――

「・・・ぎゃ――」

 上げかけた悲鳴は素早く起き上がり、左手で後頭部を固定、右手で口を塞がれた事により早朝の皇居へ響き渡る事は無かった。
 寝起きではなく常にぼんやりしている態度を以て、不知火蘇芳が静かに息を吐く。

「朝から大声を出すな」

 ――出すだろ!何だよこの状況!
 混乱する頭。そっと大きな手が離れていく。思いの外強い力だったので、首の動きが若干ぎこちないのはご愛敬。

「な、なにこれどーなってるの!?」
「お前が勝手に俺のベッドで寝て起きなかったからだ」
「おきなか、った・・・!?じゃあ、いつから起きてたの?」
「俺ならお前が騒ぎ出す10分前には起きていた」

 起こせよ、なら!思ったが言えなかった。そうだ、読書を始めてから少し眠いとは思っていたのだ。そこで止めておけばよかったのに何をやっているんだ私は。
 ――いや、ちょっと待て。
 この状況ってヤバいだろ。相手は腐っても夫、旦那。というか、男女2人きりで部屋に一晩いたって――

 がばっ、と立ち上がった私は転がるようにしてベッドから降りた。その様をぼんやりした目で皇子様が見ている。

「わ、わたしっ!帰る、部屋に帰るッ!!」
「何をそんなに慌てて――」
「さようなら!」

 一方的にそう告げ、身を翻す。戸を開け、外へ。もちろん蘇芳は追って来なかった。