3.





 どう見ても仕事中だった不知火蘇芳がデスクチェアに腰掛ける。そして私はと言うと、どうすればいいのか分からず仁王立ち状態である。広いし色々物があると言っても、所詮彼の部屋は独り暮らし向きだった。他に椅子も何も無いのだから。
 胡乱げに室内へ視線をさ迷わせる。すでに無言の時間が3分以上続いている状態だ。

「ベッドにでも腰掛けろ」
「えっ・・・あ、はい・・・」

 こちらも見ずにそう言った皇子様は小難しい書類に目を通している。もちろん、私には背を向けている状態なのでどうして困っているのが分かったのか甚だ疑問だ。
 突っ立っとくわけにもいかないので、一先ず言われた通りふかふかのベッドに腰掛けた。実にシンプルなベッドだ。
 これは――私が予想していた鉄拳制裁でも、凛凛が予想していたそういう展開でも無さそうだ。
 しかし油断大敵。ここは彼の領域だ。安易に警戒を解くのは良くない。
 というか仕事をするならば何故私を呼び出したのだろうか。普通、作業する時は人を呼んだりしないんじゃないのか。手伝えと言われるかと思ったが、生憎と私が手伝えるような仕事じゃ無さそうだし。
 ――だとすると、いよいよ呼び出された意味が分からなくなってくるのだが。
 後ろから見ても感じるイケメン臭。エリザ嬢が彼の事を恋愛対象と見ている理由がなんとなく理解出来る。
 それにしても、次期皇帝だとして、彼にその才はあるのだろうか。ぼんやりしていてとても国政を担う事が出来る人間には見えない。スイッチを切ったりつけたりするタイプなのか。松葉くんの話を鵜呑みにするとそうなるが――

「おい」
「はい!?」
「見過ぎだ。気が散る」
「はぁ・・・すいません」

 穴が空く程後ろ姿を見ていたらバレた。戸の外の気配を読むぐらいだから当然だろう。完全に失念していた。
 山積みになった資料を脇に寄せ、そして初めて不知火蘇芳が振り返る。

「退屈だ。何か話せ」

 ――唐突な無茶振り!?
 ぎょっとして旦那を見る。彼の目は至極本気だった。