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着物の裾が地面に着かないように気を配りつつ――実際はそんな心配無いのだが、着慣れない物を着ると大変だ。とにかく、そんなたどたどしい様子でやって来た街はなるほど、随分と賑わっているようだった。
「人が多いなぁ」
「そうかしら?このくらい、まだまだ普通なのだけど」
「え・・・」
隣を歩く妹君に早くも田舎者っぷりを発揮。顔に熱が集まるのを感じる。これがリアディ村だったならば何か事件が起きたに違いないと慌てふためくところである。
色取り取りの風景。歩く人々はとても煌びやかだ。ドレスを着ている者は少なく、もっとフラットな、動きやすい服を着ている人間が多いように見える。ズボンって女性も穿くんだと初めて知った。
「あ!見て見て、紫苑ちゃん、あれ!何あの長い綺麗なヤツ!」
「どれ?・・・あぁ、簪よ。わたしも着けているこれのことでしょう?」
「ほんとにただの細長い棒だよね・・・どうやって着けるんだろう」
「あら。興味があるの?ドルチェ、髪も長いしきっと似合うわ」
言って、すたすたと紫苑ちゃんが店へ入っていく。慌てて追い掛ければ微笑んだ彼女は何やら店員と話していた。
「姫様、いつもうちの店を御贔屓にありがとうございます」
「いいのよ。ここ、季節物がおいてあって好きなの。ところで、彼女に簪を買いたいのだけれど」
「はい、すぐにお似合いの物を持って来ますね」
――な、何て奴だ!値段を見ずに、好きな物を買えるなんて・・・私だったら、まずは値段を見て、その値段範囲内で可愛い物を探すのに!!
やはり金持ちは違うな、と頷いて、とりあえず唐突な暴挙を止めようとお姫様に声を掛ける。
「いいよ、私、かんざしの使い方分からないし」
「凛凛に着けてもらうといいわ。それに、このお金はわたしのものじゃないのよ。お礼なら、お兄様に言ってね」
「いやだから、そんな高級そうな物――」
「大した値段じゃないわ」
そう、紫苑ちゃんが言うのでそれとなく、手近にあった簪の値を見てみる。
――息が止まるかと思った。ゼロの数が尋常じゃない。私が普段買う物より桁が三つ四つ違う。
くらり、と眩暈を覚えたがこの時私はまだ知らなかった。
この後散々、服屋へ寄ったり履き物の店へ行ったり、小物の店へ行ってその溜めに溜めた金を散財しまくる事になるとは。
正直、金遣い荒すぎて嫌な汗が大量に噴き出た事は言うまでも無い。