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 凛凛が部屋から去ったのを見届け、執筆作業へ入る。最近、滞りがちだったので、そろそろ本腰入れて書かなければならないだろう。
 何せ、自分で言うのもなんだが、私はそれなりに売れている小説作家である。恋愛小説ばかりを書いているが、自分自身が恋愛に現を抜かした事が無い矛盾。しかし、東瑛帝国の雰囲気は今までに無かったアイディアを芽生えさせてくれた。
 ――これを書かない手は無い。
 それに何より、私の小説を待ってくださっているファンの方々の為にも、更新が止まってしまう事だけは避けたいのだ。
 不知火松葉という正ツンデレっ子のメモを取りながら気味の悪い笑みを浮かべる。
 リアディ村にも度が強いツンデレ子がいたが、彼女はすでに嫁いでしまって村にはもういなかったし、少し私の事が苦手だったようで私が近づくとウジ虫でも見る様な目で見てくる大変なツンデレだった。
 正直、松葉と彼女を並べて束の間のハーレム状態を作りたい。
 無理だと分かっているけど。

「・・・?ねぇ・・・」
「うへへ・・・」
「ねぇちょっと、ドルチェ!」
「ファッ!?」

 耳元で声がした。驚いてそちらを見ると、見目麗しい妹君の姿がある。不知火紫苑だ。入っていいと言っただろうか。

「何度呼んでも返事が無かったから勝手にお邪魔したの・・・。そしたら、ドルチェが変な顔をしているし、わたし心配になっちゃって」
「・・・あぁごめん、ちょっと興奮してた」
「え?」
「何でも無い!何でも無いよホントに!!」

 どうやら返事が無い事を不審に思った紫苑ちゃんは心配して様子を見に入って来たらしい。気立ての良い子だ。
 ――が、気立ては良かろうと彼女は私にとって面倒極まりない案件ばかりを持って来る子である。少々の警戒心を抱きながら、どうかしたのと訊いてみる。

「えぇ、そうなの。今からわたしと、城下町へ行かない?」
「じょうかまち・・・?」
「商業団が来ていて、とーっても煌びやかなのよ。こんな機会、そうそうないから行きましょう?」
「人混み・・・」
「そうね。人は多いでしょうね。けれど、ドルチェ、あなた・・・服のストックがもう無いんじゃない?買っておいた方が良いわ」
「お金が無いんだよ、私にはね・・・。なんてたって、魔女って事以外は一般市民と変わらない生活送ってるわけだし」

 恐らく、帝国外から来た商人達のテリトリーなのだろう。きっと全て高価な物に違いない。もちろん、村から出て行く時、カメリア師匠からは1円だって金を貰っていないのだから無一文もいいところだ。
 しかし、そんな私の悩みなどちっぽけだと言わんばかりに紫苑ちゃんは限りなく綺麗な笑みを浮かべた。乙女チックな、それでいて嬉しそうに。

「それについては問題無いわ。お兄様が、ドルチェにってお金を持たせてくれているから」
「う、うわぁ・・・」

 こうして私の昼という時間は城下町見学の為に費やされる事となった。