4.





 それが何と言う場所なのかは知らないが、ともあれ立派な場所だった。もしかしたら謁見の間とか荘厳な名前なのかもしれない。
 そして――ここからが重要だ。私にとっては何よりも。

「凛ちゃん・・・人、多くない・・・?」
「そうですか?」

 人混みだった。魔女村の人口は総じて少ないので、多分この場所に集まっている人間だけでその人口を凌駕している事だろう。つまり、私にとってこの場所はお祭りでも行われているような、そんな状態だったのだ。
 隣に立つ凛凛は不思議そうな顔をしている。このくらいは当然と言うらしい。
 くらり、と眩暈がする。
 ほとんど顔も名前も知らない一団の中には紫苑ちゃんや松葉くんの姿も見えた。紫苑ちゃんは少し顔を赤らめてうっとりとこちらを見ている。自国の、さらに兄とは言え結婚だと聞いて女の子ならではの感性に浸っているのだろうか。
 知っている人間も知らない人間も、その視線を一心に受けながら顔を俯かせる。何百という視線を受け止める度胸など無かった。

「さぁ、ドルチェ様。あの方が、第一皇子、不知火蘇芳さまです」

 凛凛が手で指し示す先。そっと顔を上げる。
 玉座と形容すべき高そうで真っ赤な椅子。野次馬より幾分高い場所に位置するそこに座っていたのは当然、男である。
 長い長髪を金の簪で結い上げ、着物を着た――どことなくぼんやりとしているイケメン。美形。容姿端麗。
 ――心臓が止まるかと思った。
 トキメキなんかじゃなく、主に恐怖で。
 僅かな希望を乗せた声色で凛凛に問う。

「え・・・っと・・・あの人が、皇子様?」
「えぇ、えぇ。彼のお人が、蘇芳様ですよ」

 この人、図書室まで荷物運びを手伝った人である。
 ――あ、人生終わった。
 あまりの衝撃にちょっと涙目になりながら、遠すぎる玉座を見上げた。