4.





 東瑛帝国第一皇子、不知火蘇芳。次期皇帝であるその人こそが私をこの国へ招いた張本人であり、旦那様になる予定の人間である。
 正直、最初が最初だっただけに良いイメージはまるでない。お師匠様曰く、「戦争好きで無愛想」らしいし。何の期待もしていないが、それでも殺伐とした結婚生活を送る羽目になる事を思うと酷く憂鬱だ。
 ――さて、前口上はこのぐらいにしておこう。
 素直に言えば、緊張のあまり五臓六腑全てを口から吐き出しそうな状態だ。しかし、そんな事をすればまず間違い無くこの星の反対側まで引かれてしまう事だろう。私だったら絶対に嫌だ。旦那を前に内蔵を吐き出す妻なんて。
 私を誘導するように少し前を歩く凛凛が口を開く。2日間過ごしただけだが、彼女は人の心中を読み取るのに長けているのかもしれない。緊張しているのを読み取ったのだろう、空気を緩和するように振り返って微笑んだ。

「蘇芳様の事、お聞きしたくありませんか?」
「あ・・・うーん。聞きたいような、聞きたくないよな。戦争好きで無愛想っていう情報しかないなぁ」
「あらあら。蘇芳様は無駄を嫌う方なので、戦争はお好きかもしれませんが無駄な戦いは望まれない方ですよ。私が宮廷へ来てから戦は一度しか体験しておりません」

 その一度はどうして起こったのか。出来れば知りたくない。まさか、他国の王と喧嘩したら戦争に発展したなどと言われたらどう反応していいか分からない。
 イライアス曰く、戦争の理由は大まかに分けて2種類あるらしい。
 一つは、領土問題。どうしても領地を広げねばならず、起こってしまう戦。これに関しては仕方なくは無いのだが、理由としては真っ当である。
 そしてもう一つ、王同士のいざこざ。つまりは口論から戦に発展してしまう場合。こちらについては王族・皇族の傲慢としか形容しようがない。イライアスの声色に若干の怒気が含まれていたし、何より理不尽だ。
 ――国を思うのであれば、そんなちんけな戦はすべきじゃない。

「ドルチェ様の村は――どこの国にも所属していないのでしたね」
「え?あぁ、そうだね」

 思考を遮るように凛凛が言う。

「それはとても素晴らしい事です。侵略させず、侵略しない。国のあるべき姿かもしれませんね。もはや東瑛帝国には不可能な在り方です。少しだけ大きくなりすぎてしまったようですから」

 この国は広い。この国だけでリアディ村が何個入るか分からない程に。

「あぁ、ドルチェ様。そろそろ着きます。中には沢山人がいますが、気にしないでください」
「えっ!?」
「緊張しなくともいいですよ。皆、蘇芳様の部下と妹、弟君ですから」

 ――ちょっと、それはどこら辺が安心なんだ!
 言い掛けた言葉を呑み込む。凛凛が荘厳な扉を手で指し示したからだ。

「さぁ、蘇芳様が待っておられます」
「着いちゃったよ・・・」

 その扉は、一人で潜るには些か立派過ぎた。