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夕方。夕飯を食べ終えた少し後。
凛凛が入って来た。何だかいつもより高貴な服を着ているのが気になる。
「ドルチェ様・・・お帰りになられた蘇芳様がお呼びです」
「・・・あ」
――忘れてたっ!!内職に没頭して完全に忘れてた!!
そうだ。今日は自分の夫となるらしい東瑛帝国第一皇子、不知火蘇芳が帰って来る日なのだった。朝から出迎えに誘われていたじゃないか。
思わずペンを走らせていた手を止める。忘れていたから、緊張も何も無かったわけで、改まって会う事になると緊張どころか足の震えすら止まらない。いきなり何かしでかして村に戻されるのならばまだしも、二度と故郷の土を踏めなくなったらどうしよう。
くすくす、と凛凛が笑った。
「そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ。さぁ、こちらの服へお着替えになってください。お化粧もしましょう。きっと、蘇芳様は褒めてくださいますよ」
「えっ!?いやちょ――」
思えば、今着ているこの服は東瑛の和服と違い目立つ。ワンピースの概念が無いのだ、この国には。そして何より普段着。これが、他国の正式な服だと言えればそれでよかったのかもしれないが、安物のワンピース。
――そりゃ着替えろって言われるわ。
「え、ねぇ、凛凛!ちょっと、私・・・この服、どうやって着ればいいのか分からないんだけど」
「・・・あら。そういえば、外の国にはこういった服は無いのでしたね」
「うん、そだね・・・」
服を押し付けられたものの、着方が分からない。というか、なぜこの袖を通すであろうこの上着?は前が開いているのだろうか。そしてこの、長いヒモは何なのか。
「着付け致しましょう!大丈夫!紫苑様も昔はお一人で着られませんでしたから。ドルチェ様にと思って簡単な構造の物を用意しましたが・・・改善が必要ですね。あ、御心配なさらずとも大丈夫です!こうやって一人で着られない物もありますからね」
――超フォローされてるっ!
早口にそう捲し立てられれば沈黙する他なかった。
そうして約10分後。
着替えに化粧、と色々細工された私は鏡を覗き込んで絶句した。
「誰だよこれ!!」
私は生まれてこの方、化粧などしたこともなかったのだ。