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「無駄に立派な図書室だなあ・・・」
所狭しと並べられる本、本、本。
その様を見ていると、図書室と言うよりは資料室と言った方が正しいのではないかと思う。
ともあれ指定の場所に本を直す。
「すまない、助かった。何故か周りに誰も人がいなかったからな・・・」
「あぁ・・・今日、第一皇子が帰って来るらしいよ。それで、出迎えって言ってみんな出て行ったみたい」
「迎え?お前は行かなくていいのか?」
本気で首を傾げているらしいその人に顔を向ける。心底不思議そうな顔をしていたが、皇子ともなると当然なんじゃなかろうか。
この人、案外抜けてるのかもしれない。
「私はいいや。だってほら、会ったこと無いわけだし」
「正室なんだろう?」
「顔も見たこと無い『正室』が我が物顔で出迎えに参加してたら嫌でしょ、普通。図々しいし、あまりそういう事したくなかったんだよ」
「ほう・・・皇居内の人間が全て出張っているのならば、一人ぐらい紛れ込んでいても気付かないだろうが」
「そうかもしれないね」
本当の事を言うと、時間が勿体ないという理由もあった。そこで次期皇帝が帰って来るのを延々と待たされると思うと、気が進まなかったのである。それならば、自室に篭もって執筆作業に精を出したい。
「貴方は行かないの?偉いから行かなくていいって?」
いや、と彼は首を振った。少し眉間に皺を寄せているが、それの意味する所は分からない。困っているようにも見える。
「行かなければいけないだろうな。顔を出してくる。お前は、まぁ・・・好きにしていればいい。また今度」
「あぁうん・・・」
お世辞的にそう言ってくるりと踵を返したその人は両手に荷物を抱えていたが、どうやらそのまま出迎え陣に混ざるつもりらしい。お偉方は大変だなあとしみじみと思った。