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「どうした?」
いきなり立ち止まった私に対し、彼は尋ねた。少し怪訝そうな顔をしている。
「えっと、私・・・実は皇居の外へ出ちゃいけない、っていうか・・・貴方が跨いだその敷居が境界線だったりするんだよね」
「この敷居が?」
「そうそう」
彼の視線の先には彼のみが越えられた敷居がある。しかし、この場で彼に荷物を全て渡してしまうのは、些か無責任である気がした。だが、それでもこの敷居を跨ごうとは思えない。私は命を大切にする女の子なのだ。
少し考えたその人はやがて首を振った。諦めたのだろうか?
――が、そんな考えは甘かったと思い知らされる。
「構わん。どうせ図書室はすぐそこだ。行くぞ」
「えぇっ!?いや、人の話聞いてた!?私はまだ長生きしたい!」
「好きなだけ長生きすればいい。心配する事は無い。俺が言っておく」
「第一皇子様に!?」
いや無理だろ!あんたの首が刎ねられて晒し者にされてる場面なんか見たくないぞ、私。
一瞬からかわれているのかとも思ったが、彼の表情は終始真面目である。ぼんやりしてはいるが、それでも冗談を言っている様子ではない。
「自分で手伝いを申し出ておいてとっても悪いと思っているけど・・・でもやっぱり、貴方の首が飛ぶところとか、自分の首が飛ぶところとかは見たくないなぁ」
「・・・?何の話をしているんだ」
「いや、この後に待ち構える制裁の話を・・・」
「お前は東瑛国を何だと思っている。いいから、早く来い」
何だこの人しつこい!どこから出て来たんだその執着心!!
振り切れない。松葉くんと違って厳格そうなタイプなので少し苦手である。イケメンだから全て許せるが。
困った・・・魔法で荷物だけ中へ運び込む、という方法じゃ駄目だろうか。
彼が荷物を持たなくていいという点については満たしていると思うのだが。というか、もしかしてこの人、実は凄く偉い人で私程度を皇居から出しても自分の首が飛ばない事を自覚しているんじゃなかろうか。
つまり「お前の首とか知っちゃこっちゃねぇよ。いいからさっさと荷物運べ愚図!」とでも思われているのか・・・!!
「行くぞ」
「えっ!?いや、ちょ――」
いつの間にか骨董品類を片手に持ち直していたその人に腕をぐいっ、と引っ張られる。本当にバランスさえ取れていれば重さなど無きに等しいのかもしれない。何と言う腕力だ。そして私の持っている本類はもちろん、魔法で3センチぐらい、某猫型ロボットのように浮いている状態なので腕からそれが滑り落ちる事は無かった。
ほとんど連行されるように、境界線を越える。
周りに人はいなかったが、それでも誰が見ているのか分からない状況に違う意味でのドキドキが止まらない・・・。