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隣に並んだら浮き彫りになった。
この人――かなり身長が高い。そしてその身長に見合う筋肉の付き方。小説のモデルにしたい人物なのだが、とても掴みづらい性格だというか、何を考えているのかまったく分からないところだけが玉に瑕だ。
そして、会話が無い。最初こそ気さくに話し掛けてみたりしたが――いやもちろん、イケメンとお近づきになりたいという欲望はあった。というかそれしか無かったが、それにしたって会話のキャッチボールが出来なければ、お近づき云々の問題にまで到達しない。
――なんて話し掛けよう。そういえばお師匠様が天気の話題は絶対に外さない、って言ってたな・・・。いやでも、それイライアスにやったら失敗したし・・・。
「住み慣れてきたか?」
「え?」
「東国には慣れてきたか?お前は、外の世界から来たのだろう?」
主語が無くて何の話をしているのかまったく分からなかった。が、彼の言わんとする事を理解。まさかそっちから話を吹っ掛けて来るとは思わなかったが。
面食らいながらも、その問いに答える。この人が何故、私が外から来た事を知っているのかなど愚問だ。この出で立ちを見れば誰でも分かるのだから。
「皇族の――紫苑ちゃんや松葉くんとは仲良くしているよ。リンちゃん達も良い人だね。ちょっと周りの視線が痛い事さえ気にしなければ、快適な所だと思う」
「客観的な意見だな。まるで、お前の言葉じゃないように聞こえるぞ」
「私・・・昨日来たばっかりなんだけど・・・」
「ああ、そうだったな。だが、最悪だと言われないのならいいだろう」
そこで話が終わってしまいそうだったので、強引にその話題を続ける。それ以外、彼と話す事など無かったのだ。
「知らないものを一杯見た。とっても興味深いね、東の国は。何だか私が住んでいた所と根本が違うみたいで」
「そうか・・・俺も、何度も他国へ行った事があるが、そうやってゆっくり周りを見る暇は無かったな」
「それは勿体ないね。外交官なの?」
「そうだな・・・今は」
何だか含みのある言い方だったが、仕事に関しては魔女という聖職についている私が口を挟むべきではないと判断したので追求しなかった。世の中を嘗めきっている彼の魔女は毎日生きる金を賭博で稼いでいたし。
――イライアスの苦労を思い出し、不覚にも涙が滲んだ。
「あのさぁ・・・手伝ってる手前、あまり言いたくないけれど、この荷物はどこに運ぶの?場所によっては途中で役割放棄なんて事も――」
「図書室だ。骨董品は俺の部屋に運ぶが、そこまでお前が付き合う必要は無い。本を直せば手は空くだろう」
「図書室?それはどこに――」
あ、と呟いて私は足を止めた。
踏み出した足の先には敷居がある。私は越えてはいけない、皇居から外へ出る為の敷居だ。これを越えてしまうと、私の首が飛ぶ可能性すら出て来る。何せ私は、皇居から出る事を許可されていないのだから。
困って足を止めれば、易々とその境を越えた彼が怪訝そうにこちらを見ていた。