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翌日。
今日は不知火蘇芳――つまり、私の旦那様予定の人が帰って来る日である。どこに行っていたのかは知らないが。
朝、寝起きの私を叩き起こした凛凛に出迎えへ行こうと誘われたが辞退した。
というのも、顔も見たことのない女が我が物顔で迎えに来ても、蘇芳様とやらも良い気分ではないだろうと思ったからだ。そもそも、夫の顔も知らないような妻に出迎える資格があるのかどうか。
詰まるところ、場違いな私はそんな一大イベントには参加したくなかったのである。
そんんわけで誰にも邪魔されずネタ収集をするチャンスと言わんばかりに部屋の外へ。皇居からは出ないように言われているが、皇居内では自由にしていていいとのことだった。
重厚な造りの床を踏みしめ、歩く。
片手にはメモ帳を持っており、まるでスパイか何かになった気分だ。
さすがに次期皇帝が帰って来るだけあって、人が出張っているのか皇族どころか給仕達の姿も見えない。一国を左右する人間ってやはり凄いものだと妙に納得した。
「・・・ん?」
そう思った事こそがフラグだったのか、人影を発見。見た限り、随分と大荷物のようだった。そして背が高い。
少し遠いがこんな日に皇居内をうろついている人間が気になって観察してみる。
黒い長髪を金の簪で結い上げた男だ。よく見えないが、切れ長の瞳。全然関係ないかもしれないが、イケメンだ。私よりいくらか年上に見える。差ほど違うようにも見えないけれど。
一瞬――ほんの一瞬だけ皇族かもしれない、と思った。
けれど、そう言うにしては彼は少しぼんやりとしていて鋭利さの無い人だったし、何より給仕のように大荷物を抱えている時点で違うだろうと認識を改めた。格好だけ素晴らしい方々なら家臣とかもそうだ。
見つかって声を掛けられる前に退散しよう。
そう決め、くるりと踵を返す。手伝ってあげようかと迷ったものの、東瑛帝国でこの金色の髪と青い眼は目立つ。一瞬で第一皇子の正室だと露呈して辞退されるのがオチだ。