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ツンデレ――ツンツンした態度の中でいきなりデレるという、私のような物書きにとってみればこれ以上ない程のモデル。何が良いか、と聞かれると何時間も喋り倒してしまいそうなので口を噤むが、とにかく人類の神秘なのだ。
じーっと不知火松葉を見つめていれば、彼は再びぷんすかと憤慨する。
「だから、俺に何か用なのかよ!」
「いや・・・可愛いな、って思って」
「ファッ!?」
心底不気味なものを見る様な目で見られた。何の話なのかまったく分かっていない紫苑ちゃんもまた首を傾げる。
「この愚弟のどこら辺が可愛いの?わたしにはよく分からないわ」
「・・・いいかい、紫苑ちゃん」
「はい?」
「松葉くんはね・・・ツンデレなんだよ!人類の神秘!こんな王道ツンデレ見た事が無いよ、私は!人間国宝だよっ!!」
「そうなの?」
ンなわけねーだろ、と松葉くんが叫ぶ。人を13人ぐらい殺してそうな目で睨まれたが、今の私にしてみれば彼のそんな行動は照れ隠しだとしか思えない。
「かーわいいなっ!」
「ヒッ!」
「可愛いわよー、松葉」
「姉さんまで何言ってんだよッ!!」
ひゅーひゅー、と口笛を鳴らすと便乗する紫苑ちゃん。彼女は多分、私が言いたい事の意味を半分も理解していないだろうが、如何せんノリが良い子だった。
「チクショウ!俺は、可愛くなんか、ねぇよっ!!」
――すこぶる逆効果だ。しかし、可愛いので言わないでおこう。
だが、松葉くんには感謝しなければならない。私は彼のおかげでこれからの生活を前向きに考えられそうだ。
そう全ては、ネタ収集だと思えばいい。
どうやら皇居内には意外にも個性的な人物が多いようだ。目新しい物も多い。恰好のネタ収集の場じゃないか。
「松葉くん・・・ありがとう、そしてありがとう」
「あぁあああ!気持ち悪ィ!もういい、俺は帰る!!じゃあな!」
「あら。それじゃあ、わたしもお暇するわ。また今度ね、ドルチェ。わたしは貴方の事、嫌いじゃないから」
じゃあね、と手を振って別れる。走り去っていった松葉くんが見えなくなるまで見送り、そうして戸を閉じた。皇居を走り回っていたが、彼は無事に明日を迎えられるのだろうか。