2.





 自室に机、そして紙とペンを要求し私は部屋へ引き籠もる事に決めた。というのも、魔女をやっている傍ら、物書きもしている私は基本的に紙とペンがあれば一日中部屋から出なくとも過ごせるのだ。
 何を書いているか、と聞かれれば答えは一つ。恋愛小説だ。ちょっとだけ腐っている事もある。完全に師匠の影響を受けちゃいるが、巷では割と有名な小説家だったりするのだ。
 鼻歌を歌いながら今日あったネタをメモする。
 といっても皇居がどんな風だったとか、こんな人が居たとかそんなのばっかりだが。最近は登場人物のモデルになる個性的な人間がいなくて難儀している。ツンデレとかツンデレとかツンデレとか。
 ――しかし、皇居内にいる間はそんな人間とは出会えなさそうだ。何と言うか厳格というか、とにかく徹底的に礼儀作法を仕込まれているお堅い人間は御免である。

「ふんふーん・・・っと」

 作業を始めてから15分程経った頃だった。
 不意に、戸をノックする音を聞く。しかし、部屋に訪ねて来る人など凛凛か嘉保以外にはあり得ないので、はーい、と返事をし、禄に確認する事も無く戸を開く。

「こんにちは、ドルチェ。遊びに来たわ」
「・・・おうふ・・・」

 にっこり微笑み片手をひらりと振ったのは先程会った高貴な女性。東瑛帝国第二皇女、不知火紫苑である。思わず変な声を上げれば怪訝そうな顔で見られた。
 そして――ここからが重要な話だ。
 もう一人、いる。
 多分私より少し年下な少年。嘉保より若いから間違い無い。そしてもちろん、彼の顔を見たのは初めてだ。そして何故だろう。少し睨まれている気がする。
 黒い短髪に赤い燃えるような瞳。首下には金の装飾品を着けており、かなり高貴且つお洒落な少年だ。

「何もねぇな、この部屋・・・生活出来るのかよ・・・」

 ――失礼!初対面の相手に何てこと言うんだこのクソ餓鬼!!
 胡散臭そうな顔でこちらを見て来る。このタイプの人間とは城内へ入って初めて出会った。傲慢な振る舞いといい、皇族と見て間違い無いだろう。というより、隣に立っている皇女様とどことなく印象とか顔立ちとか似ている。

「なあ、あんた・・・魔女なんだろ?何かこう、もっと凄いもの無いのかいてっ!」
「もう、失礼な事言わないで、松葉。ごめんなさいね。わたし達、ちょっとドルチェと遊ぼうと思って来ただけなの」
「あー、えっ・・・と・・・」

 ――帰ってください。
 切実にそう思ったが、気付いた時には戸の前に立つ皇族二人組を室内へ招き入れていた。