2.





 皇居――皇族が住まう区域。皇子達の正室もこの区域に住んでおり、国内で最も尊い者達の住居。

「ここが皇居です、ドルチェ様」
「あぁ・・・うん・・・」

 にこやかに言う嘉保だったが、その声は明らかに皇居以外の場所で話した時よりも小さい。そんな声でさえ、静謐に護られたこの地では響いてしまう。空気が重い。重くて重くて息が詰まって、そうして最後には呼吸すら出来なくなりそうだ。
 あまりにも――清浄過ぎて。私のような、もとはただの村人だったような魔女には、到底許容出来ない神聖さだ。
 そんな私の気も知らず、説明役を買って出る嘉保。

「知っていると思いますが、ここには皇族、ひいてはその正室だけが住まう場所です。もちろん、蘇芳様の正室であられる貴方様もここに住まう事となります」
「うん、うん・・・」
「皇帝陛下の部屋は一番奥にありますが――貴方様の部屋も、その近くにあります。どうか、粗相の無いように」
「分かった・・・」

 機械のように頷いていると話し手が凛凛にチェンジした。彼女の柔和な印象は大好きなのだが、如何せん、この状況だからあまり有り難いとも思えない。

「ドルチェ様。この区域ではお静かにお願い致します。この場で粗相をしでかし、首を刎ねられた女官、給仕は多くおりますので・・・」
「えぇっ・・・!?」

 ――本当!?嘘だろ恐ッ!!横暴過ぎるよ!!
 心中でシャウトし、顔を青ざめさせる。もちろん、つい昨日まで見習いを名乗っていたとはいえ、魔女であるからしてそんなあっさり首を刎ねられたりはしないだろうがそれでも大人数で押しかけられたらあっさり殺されてしまう気がする。
 大人数に少人数は勝てないようになっているのが、世の中というものだから。
 ですが、と凛凛が微笑む。

「きっと、ドルチェ様は大丈夫ですよ。何かあったとしても、蘇芳様が護ってくださります」
「根拠の無い励ましはいいよ、ホント・・・」
「あらあら」

 くすくすと笑う凛凛。さらにネガティブシンキングに拍車が掛かった私には「当然だろ。お前にうじうじされたら鬱陶しいんだよカス!」と言っているようにしか聞こえない。
 さぁ、次へ行きましょう。そう微笑んだ嘉保に半ば押されるようにして次の場所へ。まだ皇居に入って数歩しか進んでいないのに、もう心が折れそうだ。