3-1
宿を取った。部屋は3つ。微妙な数になってしまったが、1人部屋が2つと大部屋が1つだ。つまり、自分とあと1人は一人部屋を使うことになるだろう。
着いて来たリディアに部屋割りを任せ、ラジオ整備の為部屋の一つへ早々に引き籠もったクライドは最後のネジを締めるとぐぐっと背伸びをした。細かい作業をしていると首が痛くなってくる。歳は取りたくないものだ。
「なぁ、トラウトさんよぉ。もうラジオって生産されてねぇんだよな、このラジオも型が古くなっちまって部品が見つかりにくいぜ」
「それで何が言いたいんだよギャハハハハ!!」
「いや笑い事じゃねぇんだって。あんた、人間?だった時の身体はどこ行ったんだよ。この調子だと来年には部品も何も無くなっちまって、あとは錆びてスクラップになるだけだぜ」
ふむ、と珍しくエーデルトラウトは何かを思案するように黙り込んだ。と言っても彼の『悩む為の脳』はここにはないのだが。
待つ事数十秒。やがてラジオは不気味なくらい真面目にこう言った。
「いやな、俺も今俺の身体がどこにあるのか分からねぇんだよな、うん。最初はどこにあるのか薄ボンヤリ分かってたんだが、その感覚も薄れて来てるし・・・」
「しっかりしろよ、あんたの身体だろ」
それに、とラジオは呻るように声を潜めた。忌々しい、と舌打ちさえ漏らしそうな声音。
「絶えず移動し続けてるんだよ。おかしいよなぁ?その身体に命令を出して動かすのは俺のはずなのに、勝手にどこか行ってやがんだよ、つまりは」
絶句するクライドを余所に、ラジオは呑気に言葉を続ける。そこに焦りは無いし、かといって悔恨のような薄暗い感情も無く、ただただ事実としてそう言葉にしているだけのような無機質感があった。
「どうしてんのかねぇ、今・・・」
「捜そうとは、思わねぇのか?不便だろそれじゃ。自分で動く事も出来ないわけだし」
「もう慣れた。ま、ああ見えてワルギリアの奴は身内に甘いところがある。俺がただの鉄塊になるまでは面倒を見てくれるだろうよ、おっさんは嬉しいぜ」
「あん?家族なのか?」
「まさか!言葉のアヤってやつだろ!何言ってンだよギャハハハハ!!」
心配しないでいいような、それでいて早く身体を捜してあげた方が良いような。エーデルトラウトの飄々とした性格は手に余る、扱いに困る。