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「そのヘクターより前にも魔法使いはいたんだろうけれど、魔法使いという職種を確立したのもヘクターだ。よって、ヘクターが最初の魔法使いであり、同時に一番の迫害を被ってきた世代でもある」
「そうだな。もう、100年以上も前の『歴史』と呼ばれる時代の話ではあるが」
100年前の事なんて歴史書を読む以外で知る術は無い。けれど、どんな歴史書でも大抵は魔法使い迫害の歴史を扱う。それ程までにいつかの時代では魔法使い――否、元素を操る不気味な人間は疎外されていたのだ。具体的に言えば、魔物扱いされていたとかそんな様相だ。見つかり次第、人ならざる者として処分、討伐されてしまう。
「話を戻そう。そんなヘクターが魔法使いという職を創り出した上で魔道国を創りだしたのがそもそもの発端だ。奴は魔法使いを認めさせたところでその活動を止めるべきだったな。国なんて創り出したら碌な事にならない」
「・・・友達みたいな言い方をするんだな?」
「堅苦しく歴史を語ったって仕方無いだろ。で、そんなヘクターが創った国だからここの魔法使い達は奴を今でも崇拝してる。馬鹿げた話さ、もう死んでる人間なのに」
顰めて呟かれた声は当然小さかった。当たり前だ。崇拝者の前で崇拝対象を詰るなんて、殺してくださいと言っているようなものである。
張り詰めた空気を肺から絞り出したワルギリアは冗談っぽく肩を竦めた。
「そんなわけで、私はこの国が嫌いだ。死んでる人間を崇め奉るなんて、気味が悪くてとてもじゃないが正気でいられる自信が無いね」
「そうか。確かに不気味ではあるが・・・それは、私が帝国の価値観を以て生きているからじゃないのか?もし、私がこの国で生まれ育っていたのならばまた話は違うんじゃないだろうか」
「お前はその頭で考えて帝国を出たんだろ?あの国の違和感より、魔道国の違和感の方がずっと強い。お前なら価値観に溺れる事なんて無いさ」
一瞬を置いて珍しく誉められている事に気付いて温かい気持ちになった。なお、にやけていたからかひどく訝しげな顔を向けられてしまった。
「あーっと、そうだ。何か食べよう!そうしよう!」
「何を慌てているんだ。まあいい、じゃあ適当な店に入るか」