第4話

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「お、どうだい、リンゴ一個オマケするよ!」
「どうも」
「イチゴも今が旬だね!半額にしよう!」

 ――本来、買ったのは日持ちのするドライフルーツの類だったと思う。しかし、あれよあれよという間にワルギリアの両手には溢れんばかりの果物が乗せられていた。当然、店の主人とは知り合いでもない。
 そして連れであるアリシアには一言も声を掛けないのだから扱いの格差が顕著に表れて一種の不快感すら覚える。何なんだ一体。
 底知れない恐怖のようなものを覚えてワルギリアを引き摺り店を離れる。これももう3度目だ。行く店行く店で過剰なサービスを受けては恐れをなして逃げる、それの繰り返し。恐らく3度程度では終わらないのだろう。そんな確信めいた何かすら覚え、知らず溜息が漏れた。

「何なんだ、いったい・・・」
「魔道国だからな。私はどう見たって魔法使いだし、ここじゃ普通の事さ。慣れが肝心だな」
「私は普通の客扱いなんだが・・・というか、若干冷たい気もする」

 言っただろ、とワルギリアは意地悪く嗤う。それは自嘲めいた感情も伴っていて、やはりアリシアの脳裏にはエーデルトラウトの貴重な情報が過ぎるのだった。

「ここは魔道国。魔法使いによる、魔法使いの為の魔法使いの国。それ以外は魔法使いに媚びへつらって生きるしかないのさ。出て行けばいいのにね?」
「そう、か。つまり私もここで生きるのなら、あの商人達のように振る舞わねばならないのか」
「嫌なら出て行けばいい。こんな国、長続きはしないさ。現に私も愛着は無い」

 暴論だ、と思う。出て行きたくとも行けない人間だってたくさんいる。安全な旅をしたいのならば相応の金が必要だし、自身の足で歩くのならば魔物に襲われても平気な強さが必要だ。
 そしてそれが、暗い顔をしている魔法使い以外の人間に当て嵌まるとは思えない。悲壮感漂う力を持たない人々、それらはこの国で消費物のように扱われて生きて行くのしかないのだろうか。
 ――厳正なるカースト制度。魔法使いの為の。
 彼等彼女等が虐げられてきた時代を思えばそれはそれで仕方が無いのかもしれないが、割り切れないものは以前として残ったままだ。

「どうして、こんな・・・」
「始まりは原初の魔法使い、ヘクターだ」
「む、聞いた事がある、というかヴァレンディア魔道国を成立させた人物だな」

 そうだ、とワルギリアは深く頷いた。その視線はどこか遠くを見据えている。