第4話

03.


「あー、何か気に障る事でも言ったかね?俺」
「照れているんじゃないのか?」
「えっ。何に?」
「さぁ。ワルギリアは時々、意味の分からないところで怒ったりするから……」
「あんたそりゃフォローになってねぇっていい加減気付いた方が良いぞ」

 クライドとの問答にも飽きてきたので話を変える事にする。そもそも、友人は少し繊細なのだ。こんな繊細とは無縁そうな男に話し掛けられただけでもストレスなのかもしれない。

「おい、今失礼な事考えてたろ。アリシア」
「いいや別に。ところで、お前は魔道国について何か知っているか?」
「あん?魔道国?まあ、昔1度だけ行った事があるくらいか。あの時はアイツも一緒だったから好待遇だったぜ。――あ!」
「何だ忙しい奴だな」

 何故かいきなり手を打ったクライドが踵を返す。その身体は見間違いようもなく船室の方を向いていた。

「トラウトを連れて来るか。アイツなら何か知ってるだろ」
「そうまでして知りたい情報でもないんだが」
「ちょっと勝手の違う国だからな。今から情報収集してても無駄にはならないと思うぜ」

 言うとクライドはそのまま制止の声も聞かず走って行ってしまった。だから、エーデルトラウトではなくワルギリアに聞けば或いは情報を得られるだろうし、別に良いと思ったのに。

 ***

「やーっぱり俺の解説がねぇと始まらないよな!ギャハハハハハハ!!」
「煩いぞ」

 甲板に持って来られたラジオ――エーデルトラウトはそう言うと耳障りな笑い声を上げた。ノイズが混ざっていようがそうでなかろうが彼の哄笑は人を不快にさせる効果があると思われる。
 しかし存外とそれは自分だけらしくクライドが気にしている様子は無い。というか、ワルギリアも気にしていなければリディアだってそれに突っ込む事が無い。何故だろうか。神経質だから気になるのだろうか。
 アリシアは一つ溜息を吐き、ラジオにヴァレンディア魔道国についての説明を要求した。何やかんやで彼が持つ知識は大いに役立っている。

「ヴァレンディア魔道国ってのはその名の通り魔道士による魔道士の為の魔道士の国だな!厳正なカースト制度の上に成り立ってて、その頂点に君臨するのが魔道士だ。七賢者っつー7人の大魔道士が運営してる」
「うん?つまり、7人で政治やってるとかそんな事か?へぇ、よく揉めねぇな」
「王国とは違うのさ、王国とはな!ちなみに、その七賢者の中にはワルギリアの師匠がいるが……まあ、滅多な事はしない方が身の為だな!ギャハハハハ!」
「なに?なら、ワルギリアが魔道国を知っているのは当然じゃないか。騙された、ワルギリアに聞けば良かった」

 やはり耳障りな笑い声を上げるラジオに向かってうんざりした溜息を吐く。そう言えば友人の言動にも里帰りでもするかのようなこなれた感じがしたと思ったのだ。
 しかし、その次に紡がれたエーデルトラウトの囁くような、ともすれば聞き逃してしまうような小声は恐らくワルギリアに事の次第を聞いていたのならば知る事が出来なかった情報だろう。

「ちなみに、俺もワルギリアも……実は魔道国がそんなに好きじゃない。――なんてな!どうだい、俺様を呼んで正解だったろ!?ギャハハハハハハ!!」
「う、く……好きじゃないとはどういう事だ?故郷、なんだろう。少なくとも、ワルギリアにとっては」
「誰しも自分が生まれ育った場所が好きだとは限らねぇさ!そういう感じ、ヴァレンディアでは多いぜ!覚えときな箱入りお嬢様よぉ!」

 煽るな煽るな、とクライドが慌てて止めに入る。彼には悪いがこんな安い挑発に乗るような神経はしていない。

「しかし成る程なぁ、アイツ、今日は顔色悪いと思ったんだよ」
「おう、クライド。お前のそういう空気の読めない発言は寿命縮めるぜ!間違い無い!」
「え。いや、ただ俺は一応心配して――」
「最初のキャラからぶれすぎだろ!ギャハハハハ!」

 復讐キャラ気取るのも大変なんだぞ、とまったく努力した形跡の見られない人間が吐く台詞ではない台詞を吐きながらクライドはしきりに頭を悩ませていた。成る程、確かにこれだけ見るとパーティ加入時の件など露程も感じさせない。