第3話

06.


 ***

 依頼に出発して数分。ふとワルギリアが尋ねた。

「――そういえば、依頼の内容を聞いてなかったな。何をするんだ?」
「大型魔物の討伐です!」

 答えたのはリディアだった。腕が両翼へと戻っている彼女はバタバタと地面スレスレを時折着地しながら飛行している。脚で歩くより跳ねるように移動した方が楽らしい。
 その翼の羽ばたきを鬱陶しそうな顔で見つめている友人は、更にその続きの言葉を待っている。

「新種かもしれないんだ。ドラゴン種だと言う者もいるそうだが――まあ、この程度の森だか林だか分からない中途半端で人目に付く場所に竜種はいないだろうからな」
「へぇ。また面倒な依頼を選んだな、アリシア」
「選んだのは私ではなくて、クライドだ。なぁ、そうだろう?」

 ギクッ、とクライドが顔を強張らせた。これはアリシアのささやかな嫌がらせなのだが、それに気付く程の余裕は狙撃手に無かったようだ。口元に引き攣った笑みを浮かべ聞こえなかったふりを押し通すつもりらしい。
 しかし、そんな彼のささやかな抵抗はエーデルトラウトの一言によって打ち破られた。

「コイツ、そっちの鳥娘の分け前を出来るだけ多くする為に難易度最高ランクの依頼を取って来やがったんだぜ!青春だねぇ、ギャハハハハ!!」
「あれ?ラジオが……」
「エーデルトラウトだ。そいつは喋るんだよ、気にするな」

 目を眇め、射殺さんばかりの視線でクライドを一瞬だけ睨み付けたワルギリアはしかし、それ以上の言及をしなかった。呆れているのかもしれないし、まあいいかと開き直ったのかもしれない。
 一方で元凶のリディアはというと不思議そうな顔でラジオを見つめている。冷静な対応ではあるが、単に目の前で起こった現象について理解が追い付かないのだろう。

「礼を言っておいた方が良いな、リディア。同行者の可愛らしい決断じゃなかったなら、今頃お前はここに放置されてた」
「こら、ワルギリア!」

 息が止まりそうな低音で言い切った友人を諫める。が、当人はケロッとした顔でそうですね、と頷いた。メンタルが強い、存外にも。楽観的とも言えるだろう。

「クライドさん、ありがとうございます。私みたいな鳥頭小娘に合わせてくれて」
「自虐酷すぎるだろ!あー、まあ、いいさ。こっちにもこっちの事情ってもんがあるわけだし……それより、疲れてないか?負ぶってやってもいいぜ」
「えーっと、大丈夫です!私はまだまだ行けます!」
「そうかい。あまり無理はするんじゃねぇぞ。ここはまだ、帝国が近いから」

 なぁ、と歩く速度を落として隣に並んだワルギリアが小さな小さな声で話し掛けてきた。黙って問い掛けに耳を傾ける。

「あれは贖罪だとか、投影だとか、そういう感情の元で行われているやり取りなのか?」
「君の言っている事はたまに意味が分からないが、きっとそうなんじゃないのか?」

 良くない、ポツリと呟かれたワルギリアの言葉は少しばかり他人事のようであり、同時に何かの受け売りのようだった。が、それを拾い上げ、問いただす前に先を歩いていたクライドが結局はリディアを背負ったのを見てタイミングをすっかり逃してしまった。