05.
***
それから30分が経過した。相変わらず部屋はまだ準備中だし、あまり口にはしないが冗談などではなく本当に疲れているらしいワルギリアは口を閉ざしたままだ。フードの下は伺えないがもしかしたら眠っているのかもしれない。
そわそわと落ち着き無く周囲を見回す。皇国への旅行者は近年、かなり減ってしまったので自分達以外の宿泊客の姿は無い。
「さっきからキョロキョロしやがって鬱陶しい奴だな。落ち着けねぇのかよ」
「う、うるさい!」
「声がデカイだろ!ちっとは考えろよ!!」
――エーデルトラウトが絡んできた。彼の目がどこに付いているのかは分からないが、さっきからずっとそわそわしていたのには気付いていたらしい。ワルギリアの反応は相変わらず無い。やはり眠っているのだろう。
いや、これは良い機会なのかもしれない。ワルギリアではなく、彼に訊きたい事は山ほどある。ラジオである事を差し引いたとしても。
「気を逸らしたい。私の質問に答えてくれないか」
「ああん?いいぜ。答える価値のある質問だったらな!ギャハハハハ!!」
「……貴方とワルギリアは、いったい、どんな関係なんだ?いつから私の屋敷にいた?」
「うっくっくっく、質問は一個ずつしろって平兵士の時に教わらなかったのかよ、騎士サマ。俺は最初、アイツがお前に拾われた時からずーっといたぜ。寝てたけどな」
ワルギリアと出会っておよそ1年。つまり、1年もの間眠っていたという事だろうか。或いは言葉のアヤというものか。
「で?俺達の関係だぁ?ンなもん俺が知るかよ」
「仲間、とか何とか無いのか?」
「無いね。俺じゃなくてワルギリアに訊けよ。奴は秘密主義だけどな!イッヒッヒッヒ」
そこでぷつり、と途切れたようにエーデルトラウトが黙った。壊れてしまったのかと思い、思わずラジオの紐に手を伸ばす。が、その手は不自然に伸ばされたまま止まった。
「お客様、お部屋2つ準備が整いましたよ」
兎のような長い耳を垂らした女主人がカウンターからそう言った。礼を言い、立ち上がる。そうだ、ワルギリアを起こさなければ。
「早番と遅番、どっちがいい?アリシア」
友人の方を見やれば、彼女は微かに身動ぎしながらゆっくりと身体を起こしている途中だった。あまり深くは眠っていなかったのかもしれないし、最初から黙っていただけで起きていたのかもしれない。
ともあれ、ワルギリアは返事を聞くこと無くどことなく鈍い足取りで女主人を追って行ってしまった。
「ワルギリア!」
背に向かって声を掛ければのろのろと首を動かし振り返る。疲れているのは一目瞭然だ。
「おやすみ、また明日、話は聞くから」
「ああ。おやすみ」
ひらり、と片手を振った彼女は促されるまま自室へ入っていった。