2.
攻めあぐねているドリスを余所に、待ってあげる必要も無いとイアンが今度は飛び掛かった。迎え撃つように薙ぎ払われた大剣を一歩下がるだけの動作で躱す。ドリスの眉間に深い皺が刻まれた。
――よし、遠慮してんのか知らないけどドリスの攻撃は単調。後は畳み掛けて予備のお菓子を補充するだけ。
2撃目も軽くいなし、半歩で剣の間合いへドリスをねじ込む。リーチそのものは大剣にどうあっても勝てないので、相手の有利間合いにいつまでも突っ立っているわけにはいかない。
「これが《本部》のハロウィンだからね。悪く思わないでよ、ドリス――」
「うわあああああああっ!!」
――えっ、何!?
思わず動きが止まる。瞬間、ドリスの蹴りが思い切り腹にめり込んだ。蹴り転がされて形成が逆転する。
何だか知らないが、とにかく立ち上がらないと。
痛む腹を押さえながらドリスに足払いを掛ける。転ぶ事こそしなかったが、予想外の反撃を跳んで避けたドリスを尻目にふらふらと立ち上がる。案外堪えた。
「ななな、何やってるんスか!?イアン隊長、アネゴ!?」
聞き覚えのある声に頭を押さえる。「何をやっているのか」、だって?何を言っているんだコイツは。
そんな隊長の心中を推し量ること無く、無防備に「隊長!」、とか言って剣士達の間合いに入って来るサイラス。さすがに無防備過ぎて剣を向けられず、奇妙な空気が流れる。
「そ、それより聞いて下さいッスぅぅぅ!!さっき、いきなり廊下で喧嘩吹っ掛けられたんスよ!?今日どーなってんスか、もう!隊長達も喧嘩してるし!何かむしゃくしゃしてるんスかぁぁぁ!?」
「何で、って・・・今日はハロウィンだからね。あれ?もしかしてサイラス、《本部》でのハロウィンは初めて?」
「ハロウィンってこんな恐ろしい行事じゃないッスよ!そりゃ、アーリーン教官の作ったかぼちゃパイ食べてたらハーヴェイ先輩の視線が恐かったけど・・・怪我するような行事じゃないッスぅ!!」
成る程、とドリスと顔を見合わせる。「うう、酷い目に遭ったッス・・・」、と落ち込むサイラスは女同士のアイコンタクトには気付いていない。
泣きつく部下を見て、上司はこう言い放った。
「甘えるなっ!」
「へっ!?」
突き飛ばされて尻餅をついたサイラスが茫然とした顔で見上げて来るのを、イアンは冷めた眼差しで見つめ返した。