2.
「さて、初戦でお菓子を全部失わないように気を付けないとね、イアンちゃん」
「去年のようにはいきませんよ・・・!」
不敵な笑みを浮かべるエヴァルド。しかし、今年はトルエノがいる。1対1では彼に太刀打ち出来ないかもしれないが相棒が頑張ってくれれば菓子の大量放出は避けられるかもしれない。先にこちらが例の言葉を嗾けるべきだった。
「い、イアン・・・?今までに見た事無いくらい真剣な顔だな・・・!?」
「よし・・・行けっ!トルエノ!君なら出来る!思いっきりやっちゃって!!」
「思い切りッ!?お前が大暴れすんなって俺様に言ったんだろッ!まだそれから1週間も経ってねぇぜッ!!」
「構わん、やれ」
「どーしたってんだよ・・・」
いつも変人のトルエノから心底不気味なものを見るような目で見られたが、生憎とそれどころではない。ふふ、と世の女性を色めき立たせるあざとい笑みを浮かべた色男はすでにやる気満々だ。
手の内で弄くっていた双剣を構え直す。それはそろそろ始めていいか、という問い掛けに他ならなかった。
「行くよ、初動で敗北だなんて拍子抜けする事にならないといいね」
「何かしらねぇがッ!暴れていい、ってんならやるぜッ!!」
「・・・暴れてもいいけれど、あまりやり過ぎるとアーサーに怒られてしまうかもしれないよ。壁に傷なんか付けない程度に暴れた方がいいんじゃないかな」
「だ、そうだよ!適度に手加減して暴れて!トルエノ!!」
「ふっざけんなッ!!」
そりゃ無茶だろ、と正当な講義をする為こちらを振り返る相棒。しかし、エヴァルドはその隙を見逃さなかった。
「君さえ抜いてしまえばイアンちゃんは落とせそうだね。ま、これも年の功ってやつかな」
「あッ!待てよッ!!」
――あっさり抜かれてんなよ!
心中でそう絶叫し、何の躊躇いも無く振り下ろされた双剣を剣で受け止める。鍔迫り合いでは不利なので適当な所でエヴァルドの双剣を受け流した。直ぐさま空いた片手に魔道書を出現させる。
どうやって攻めたものか、と考えていたらしいトルエノが結局は魔力系統全てを使わないという結論に達したらしく素手でエヴァルドに飛び掛かった。
「別にブレスなんて無くてもやってけるぜッ!」
「わぁ。丁寧な説明を有り難う」
失笑したエヴァルドが優雅な動きで突っ込んで来たトルエノを躱す。そんな直線的に動けばそりゃ躱されるわ、と心中でツッコミつつ術式を編成。ようは雷、炎系統を封じて氷系統術式を使えば万事解決である。床がちょっと水浸しになるかもしれないがそれは掃除でどうにでもなるし。
風の術式と氷の術式による混合術式。
まだまだ季節としては早過ぎるが、早めの吹雪を体験するのも悪くないだろう。
「エヴァルドさんっ!今年は1袋丸々お菓子をあげたりなんかしないんですからね!!」
「それは残念だなぁ」
間違い無く凍える、小さな吹雪が狭い廊下を通り過ぎる。
「この程度で――」
「捕まえたぜッ!!」
エヴァルドの右腕を掴んだトルエノが嬉々とした声を上げた。人間的な防御力しか持たない彼が耐えられたものを、相棒が耐えられないはずがなかったのだ。