1.
10月31日――ハロウィン。珍しく真面目な顔をしたイアンはその顔のまま、せっせと多種多様、様々なお菓子を白い大きな袋の中に詰め込んでいた。
「よぉ、イアンッ!!何やってんだ?」
と、そこへやって来たのは相棒のトルエノ。手ぶらである。それを目敏く発見したイアンはピリピリした空気のまま相棒を見やる。
「・・・トルエノ。君、お菓子は?」
「ハァ?持ってないぜッ!ん〜?お前、菓子持って来いなんか言ったっけ?」
「ば、馬鹿な・・・ッ!今日はハロウィンだよ?お菓子持ってないなんて・・・自殺行為だよ!!」
ハロウィン?とトルエノが小首を傾げる。対し、イアンは力強く頷いた。
「悪戯されたくなかったらお菓子は持っておかないと・・・。いや、お菓子持ってても危険な時は危険だけど無いよりマシだよ。お菓子さえ渡せば見逃してくれる人もいるし・・・」
「はぁ?ハロウィンって菓子をバラ撒くイベントじゃねぇのかッ!?」
「だまらっしゃいっ!」
思わぬイアンの気迫に驚いたのか相棒は姿勢を正した。
「いい?《本部》のハロウィンっていうのは例の言葉を言うか言われるか、そこから勝負は始まってるんだよ。ただでお菓子を受け取って貰うなんて烏滸がましいし、ただでお菓子を貰おうなんて愚の骨頂ッ!そうこれは・・・聖戦!!」
「悪い、イアン。お前が何を言ってるのかちっとも分かんねぇぜッ!!」
「だからつまり、ハロウィンは恐い行事なんだよ」
「――そうだよ、イアンちゃん。まあ、君は初めて《本部》へ来た年に嫌って程経験しているからね」
思わぬ同意の声に真横へ跳びながら振り返る。一拍おいてザシュッ、という凍り付いた音が鼓膜を叩く。先程までイアンが立っていた場所に氷の剣が突き刺さっていた。
「じゃあ俺から言おうかな。Trick or Treat・・・お菓子をくれなきゃ、もっと悪戯しようかな」
「今年の1人目はエヴァルドさんですか。勿論、お菓子あげますよ。私に勝ったら」
「それは良かった。お菓子を持っていないようだったら・・・ね?」
今から何が始まるんだよ、と困惑を隠しきれないトルエノを尻目に両者は不敵な笑みを浮かべた。