4.

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 蹲った状態のまま、領主・アレクシスは考えていた。目の前の少女は一体何者で、今この状況はいったい何なのかと。
 蹲ったままに、ファンシーな手紙に書かれた内容を思い返してみる。あの手紙は玄関に見知らぬ荷物が置いてあり、そのリボンに挟まっていたのだ。爆弾か何かかと思って今の今まで手が出せなかった。
 内容はこうだ。『先日の一件により、村人全員で選んだお菓子です』。
 ――で、中身が少女なのだが、どこら辺にお菓子があると言うのだろう。それとも彼女はフェイクで、実はその奥に菓子があるとか?
 驚きのあまり思わず吐血してしまったが、テイク2はまだ間に合うだろうか。
 そもそも、何故こんな事になったのだろう。心当たりは1つだけあるが、「え、まさか」、というレベルの微々たるものだし、そんなのが理由でこの少女がこの場に召喚されたとするとかなり不憫である。
 それにしても彼女、このグルグル巻きのラッピングを全て引き千切って箱の中から出て来たのだが、自分に対する刺客という可能性もあるかもしれない。


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 心当たりの一件、と言えば3日前の話である。
 ハロウィンにしては少し早かったものの、仲間内の話でハロウィンの存在を知ったアレクシスは村に下りて来ていた。吸血鬼だと怖がられる自分の為にあるようなイベントだ、と仲間内に吹き込まれていたので、早速「トリック・オア・トリート」なるものを試してみようと思ったのだ。
 ――が、朝早くにやって来たせいか、人の姿がまばら。人間が何時に起きて活動を始めるのか調べていなかったのは失敗だった。
 それでも道行く男性を上手く捕まえる。
 思えばこの時点から大分怪しかった。雲行きとか風の流れとかが。

「やぁ、おはよう。今、ちょっといいかな?」
「ひぃっ!?な、ななな何でしょう!」
「そんなに怯えなくていいよ。ただ、ちょっと友達から小耳に挟んだんだけど、ここでも通じるのかな?」
「え?」
「トリック・オア・トリートだよ。どうなんだい?村でもハロウィンは祝うのかな――」
「ほ、本気なのですか領主様!」
「!?」
「しょ、少々――3日ぐらいお待ち下さい!村長と話をして参りますのでっ!」
「え!?いや、ちょ――」

 ちなみに、この後この男性はありのままそれを村長に伝えた。その結果、「村が悪戯で血祭りにされる前に生贄を用意しなければならない!」、と決まりエディスが領主の屋敷へ召喚された、という事になる。もちろん、アレクシス本人はそれを知る由も無かったのだが。