若い男だったが、妙に貫禄のある男だった。瞬時に「あ、この人が領主だ」と気付いたエディスは身を固くする。しかし、よくよく見てみると彼はかなり目立つ風貌だった。
まず、この地方には珍しいプラチナブロンドの長髪を一つに結っている。さらに、その銀色に溶けるかのように顔の色は白い。血の気がない、と言った方が適当か。とても生きている人間には見えない。
――と、そこで彼女は悟った。勘はもとから良い方だったし、ここまでヒントを出されて気付かない人間はいないだろう。
つまり、子供の間でまことしやかに囁かれていた噂。あれは本当だったのだ。そうだとすれば、村の滅亡だの村が血祭りだのと騒いでいた村長にも納得がいく。
もう一度、男を見下ろす。箱に目線を合わせるように彼は屈んでいたので、立てばエディスの方が高い位置に頭があるのだ。
微動だにせずこちらを見つめる瞳。ゆっくり視線を下ろして行くと、その手にはファンシーな柄の便箋と、同じくファンシーな紙が握られていた。
というか、何故この人が驚いた顔をしているのだろうか――
「あの・・・」
「ぐほぁっ!!」
「!?」
この状況は何なんですか、と聞こうとした瞬間。屈んでいた男が盛大に吐血。ファンシーな手紙達を真っ赤に汚し、倒れた。
どうすればいいのか分からず、エディスはオロオロとその周りを歩き回る。逃げるとか、さすがに人命を放置してやれるわけがなかった。