2.

 はたして、エディスが詰め込まれたのはちょっと大きすぎるプレゼント箱だった。可愛らしい装飾がいっそ生々しい。辛うじてそれだけは確認したのだが、現在は頭上からラッピング用テープを結ぶ音が聞こえてきていた。
 逃げよう――そう思えば逃げられそうなものだが、村長に村の命運が掛かっているとまで言われては逃げるにも逃げられなかった。基本はお人好しなのだ。
 がくん、と箱が揺れる。それと同時に感じる浮遊感。ようやく運び込み作業が始まったらしい。というか、こんな箱まで用意して案外ノリノリなんじゃないのか村長。よく村の危機とか言いつつこんな物用意出来たな。


 ***


 次に事態に進展があったのはおよそ数時間後だった。どうやら目的地である領主の住まう古城に着いたらしく、動きが止まっている。
 少しして、扉をノックする音が聞こえた。
 ――それと同時に、箱を放置して走り去る足音。説明も何も無く、人間が入った箱だけを放置して去って行ったというのか。どれだけ怖がられているんだうちの領主は。

「・・・だ、誰かー・・・誰かいませんかー・・・?」

 小さな声だけが箱の中に反響する。ちょっと冗談じゃ無い事態になってきた。これ、このまま逃げてもいいのだろうか。いや、逃げてどこへ行けと言うのか。村へは帰れない。

「でも、こうしてても仕方ないですし・・・」

 誰も聞いていないと分かっていながら、エディスは呟き、決意した。いつまでもこの箱の中にいるわけにはいかない。早く逃げなければ。
 身体を起こし、蓋に手を掛ける。これを押し上げれば自由の身だ――
 ブチブチッ、メリメリッ、というおよそ蓋を押し上げる音とは思えない音がしたものの、蓋を開ける勢いで立ち上がる。

「うぉわぁっ!?」
「ふぁっ!?」

 驚いたような声――に、エディスもまた驚いた。まさか外に人がいるとは思っていなかった上、このような奇声を掛けられれば驚くのは当然である。