エディスは広大な領内にある小さな村に住む少女である。ちょっと他に事情のある少女だったが、それは村に重宝されていたし、よく「頼りになる」と喜ばれたものだ。誉められる度に複雑な気分にはなったものの、概ね楽しく生きていたと思う。
しかし、そんな素朴な生活は唐突に終わりを迎えた。
10月も終わるある日、村長に呼び出されたのだ。それも、一家揃って。両親は事情を知っているらしく、真っ青な顔をしている。
「エディス・・・済まない、話があるんだ」
重々しく村長が口を開く。暗い顔色とは裏腹に、出て来る言葉ははっきりしているし、何よりもう決めたという意志が少なからず伺えた。
「な、ななな何でしょう!?」
一方のエディスは人見知りが激しい上、顔見知りとは言え村のトップに当たる長の話に心底緊張していた。エディスを見て両親が一層顔色を悪くする。
ぽん、とエディスの肩に村長の手が置かれた。途端、固まる少女。
「ほんっとうに済まない。君を――君を、領主様への生贄として遣わせる事になった」
「・・・はい?」
「村で話し合った結果なのだ。赦せとは言わん。だが、村の為だと思って素直に従ってくれないか」
「え・・・」
広大な領を治める領主。しかし、彼は人間ではないらしい。何でも人の生き血を啜る吸血鬼だとか。エディスを含む村の少年少女はそれをただの噂であり、何かの揶揄だと思っていたのだが、村長の顔色を見る限り本当の事なのかもしれない。
途端、エディスが震え始める。当然だ。それはつまり、体の良い犠牲者である。村を護る為――近所付き合いはあるとはいえ、赤の他人の為にその命を捧げてくれ、とそう言われているのだ。
エディスの家は兄弟が他に3人。エディスはその中で唯一の女子だったし、何より末っ子だった。それを加味した結果が現状なのだろう。
「その、村長――」
「よし、詰め込め!」
――何にですかっ!?
聞く暇も無いまま、周りから屈強そうな村の男達が出現する。あ、これは反論とか出来ない感じだ。
早々に思い至ったエディスは小さく悲鳴を上げて屈み、両手を頭で抱え込んだ。