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7.
で、先生の話なんだけど、と緊張感が欠片も無い声で話し始めるエヴァン。彼のこの演技がかった仕草は苦手である。
「《解析者》っていうのがいるよね?まずはそれに名乗り出て貰いたい。生きているのなら、使っておきたいからねぇ」
《解析者》――1つのゲームにつき、1人だけ役職を視る事が出来る役職。それが出て来たとして、誰を視せるつもりなのか。
「死んでそうだなぁ。これだけしか生き残ってないのにさ、都合良くそんなラッキーアイテムが生きてるもかな~」
「アイテム、って・・・。でも、もしかしたら生きてるかもしれないし」
「名乗り出ても鵜呑みにしちゃ駄目だよ~。怪しいし」
フェリクスが薄く笑う。はなから、今から出て来るかもしれない《解析者》は疑って掛かるつもりのようだ。意外と人を信じているようでまったく信じていない彼の態度は、時折アイリスを心配にさせるが――きっと付き合いの長い親友の事だ。そんな心情にも気付いていることだろう。
ともあれ、《解析者》を呼ぶ声を聞いて反応を示したのはエヴァンの斜め後ろに立っていた――つまりは、教師の1人であるヘルヴィだった。
「私が《解析者》です」
厳格にして淡泊な声。抑揚の無いその調子で嘘を吐いているのだとしたら、戦慄さえ覚える。
そう、と笑ってみせたエヴァンは何か思案するように口を閉ざした。数秒の後、そもそもの問題にたどり着いたのか首を傾げる。
「もう誰かの役職視たりした?」
「いいえ」
「そうか・・・なら――」
「盛り上がっているところ悪いが」
ここで険しい顔をしたデュドネが自己主張するように片手を挙げた。え、どうした、とエヴァンが目を丸くする。まさか、デュドネが割り込んで来るとは思っていなかったのだろう。
「《解析者》は俺だ」
「おい・・・」
エルバートが痺れを切らしたように舌打ちした。面倒な展開になった、と。即リコールされたはずのヘルヴィは僅かに眉間に皺を寄せたのみで何かコメントらしいコメントは無い。
教師間で睨み合っているのを受けて、生徒間にもざわざわとした喧騒が広がる。
「怪しいタイミングだなオイ」
「まったくだね~。どっちがホンモノなんだろー。でさぁ・・・《予言者》っていうのもまだ出てないよねぇ」
「昨日まで授業やってたとか、学院って恐いところだよ・・・」
「なーんにも解決してないのにね~」
担任だから疑いたくは無いが、デュドネが名乗らなかった理由が真っ当なものでなければ、きっと彼は《憑者》だ。しかし、言い出した張本人であるエヴァンはデュドネと気のおけない仲だし、ヘルヴィに些か不利な状況なのかもしれない。
「これ、《解析者》おじゃんにしちゃったかもね」
「え~?」
「2人いる以上、どっちの言葉も信用出来ないよね?なら、2人が別々の人間を《憑者》だって言っちゃう可能性だってある。そうなったら、2人とも処分する?人間の数は着実に減ってるのに・・・」
「戦争やってるわけじゃないからさ~、生徒の数は出来るだけ減らしたくないはずなんだよねぇ、学院も。それを考えたらリスクが高い事は出来ないってわけね~」
これはつまり、由々しき事態だ。
何より恐いのは――この状況下で、言い出しっぺのエヴァンはあまり困っているように見えない事である。