6.
ややあって、ショックから立ち直ったヴェーラの瞳には憎しみすら宿っていた。それだけで、レックスのあの言葉が火に油だった事を明白である。
「ちょっと待ってよ・・・この、一大事にどうしてそんな嘘を吐くのかな?ハルトくんが死んじゃったっていうのに、平気で人を擁護する嘘を、どうして吐けるのかな・・・?」
「嘘じゃない!そういうあんたこそ、嘘吐くの止めろよ!」
――何がこの議論で面白いか、と問われれば答えは一つ。
当事者であるラウラではなく、何にも関係無いはずのレックスが彼女の弁護をしている事だ。当事者間で話し合うべき問題に、まったく無関係の第三者が全面的に割り込んでいる。
そして、どちらにもラウラと会った、という証言がある以上、これから始まるのは水掛論だ。ここまで当事者達プラスレックスを除く誰もが彼女達を目撃したと申し出ない。ならば、どちらが嘘を吐いているのか見分ける術は無く、証明する事も出来ないのだから。
見かねたデュドネが今にも戦闘を始めそうな2人を慌てて引き離す。
ほとんどの者がそう見せていないが、武装解禁状態なのだ。いつ得物を取り出すか分からない。大きな得物を持つ者も多いので、普段は術式の中に武器をしまっている者がほとんどなのだ。
「落ち着かないか!とにかく、君達の発言を証明する手立てが無い。一度、保留にしよう。確信の無い者を勝手に葬る事は出来ないんだ」
ほっとしたような表情を見せたのはレックス。納得がいかない、とばかりにデュドネを睨み付けたのはヴェーラだ。吹っ掛けた本人はやはり、その言葉で、はいそうですかとは引き下がれないらしい。
なおも食い下がろうとしたヴェーラの言葉はしかし、彼女自身の担任に遮られた。
「あーちょっと、そっちの問題は片付いた?今、エルバート先生と話したんだけどさ・・・って、何か微妙な空気だねぇ」
こちらも見ず、何やらエルバートとアイコンタクトを交わしていたエヴァンは生徒達の様子を見て首を傾げた。本当にこの件はデュドネに任せきりだったらしい。
溜息を吐いたデュドネが呆れたような顔で事の顛末を簡単に説明する。この件、と言うよりヴェーラが巻き起こした騒動すら知らなかったようだ。
デュドネの話を聞いて一応、納得の意を見せ頷いたエヴァンの顔が制服のスカートを握りしめ、怒りのあまりわなわなと震えているヴェーラの方を向く。一瞬だけ絶句した彼は、ややあって彼女に声を掛けた。
「何か大変だったみたいだねぇ。ほんっとうに悪いんだけど、今この場では少しだけ保留にさせてもらっていいかな?早急に解決しないといけない問題・・・というか、日付を跨ぎたくないんだ」
「・・・分かりました」
「うんうん。ごめんね、ヴェーラちゃん」
優しげな顔で頷いて見せたエヴァンはヴェーラの背をそっと押し、クラスAの輪に加える。やはりクラスメイト間の結びつきは強いらしく、クラスAの面々は彼女の発言を信じる方針のようだ。他クラスの冷めた目とは違い、何だか温かさのある空気である。
「フェリクスは・・・向こうに入らなくていいの?」
「ん〜・・・別にいいよ、どーでも」
「友達いないんじゃ・・・」
「え〜、酷いなぁ!それに、オズくんも一匹狼だしねぇ〜」
そう言ってフェリクスが指さした先。何やら思案顔のオズウェルの姿があった。彼もまた、親友と同じく、クラスメイトの連中から一線を引いているように――見える。