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4日目

5.



 今にも掴み掛かりそうなヴェーラを制して、デュドネは《憑者》かもしれないBクラスの少女を見る。何を考えているか分からない無表情に、何だかふらふらした足取り。
 そんな彼女の様子を見たアイリスは担任とまったく同じ事を考えていた。

「ラウラ、って・・・いつもあんななの?」
「さぁ?俺も違うクラスだから知らなーい」

 焦点の定まらない目。事の重大さをいまいち理解していないような顔。隣に立つクラスメイトのレックスの方が、唐突なヴェーラの証言に腹を立てているように思える。

「君は、昨日の夜――何をしていたんだい?というか、どこにいたのかな?」
「えー・・・昨日は・・・あーっと・・・部屋にー、いましたけど・・・」
「そ、そうか・・・」

 会話に障害が多すぎる。もう、デュドネは引っ込んで担任のエルバートを連れて来る方が賢明なのではないだろうか。
 しかし、ラウラの解答にまたもヴェーラが憤慨する。

「嘘吐かないで欲しいかな!昨日は私と会ったでしょ!?」
「だからー・・・知らない、って・・・」
「口ではどうとでも言えるんだよ!私の発言にも証拠は無いけれど、君の発言にだって証拠も確証も無いんだからね!」

 むしろ、ヴェーラの方がやや優勢に見える。何故なら、火のないところに煙は立たない。本当に昨日、ラウラが何もせず部屋に閉じ籠もっていたのならばヴェーラに因縁を吹っ掛けられる事も無いはずだからだ。
 この集会の場で、ラウラのまったく見に覚えの無いでっち上げを語るには少々荷が勝ちすぎている。
 けれど、ここまで黙って両者の言い分――否、恐らくはヴェーラの粗探しをしていたであろうレックスが割って入った。

「ラウラはそんな事しないって!」
「それも根拠の無い言葉だよね。だって、君は四六時中ラウラをずーっと観察しているわけじゃないから」

 割って入った第三者に対し、ヴェーラは氷のように冷たい視線を手向けた。今の言葉を要約するのならば「引っ込んでいろ」、という事だろう。
 事実、レックスが今言った言葉は単なる精神論にしか過ぎない。証言と呼べるものではなく、ただの今までの経験上から見たラウラの性質なのだ。そんなものは、この騒動が起きてからまったく役に立たない事を、アイリスはハッシュの事件で痛感している。

「あ~、アイリス。眉間に皺寄ってるよ~。どうせ、昨日の事考えてたんでしょー?」
「・・・考えてない」
「あは。本当に嘘吐くのが下手だなぁ。けれど、これで決まったよね~。ラウラちゃんにもヴェーラちゃんにもアリバイっていうか~、証拠?が無いって事は――」

 フェリクスの推測を遮るように、レックスが叫んだ。
 ――曰く、「証拠ならある」、と。
 ヴェーラが冷めた目でレックスを見る。そんなものがあるはずがない、とでも言いたげだ。けれど、俯いていた彼は歯を食いしばり、ひどく必死な表情でこう言った。

「こんな事件が起きてるし、不謹慎だからあまり言いたくなかった。けど!俺は昨日、ラウラの様子を見に、ラウラの部屋に行ってる!だから、ラウラがアルハルトを刺し殺してる暇なんか、無かったはずだ!」

 その『証言』はヴェーラにとっても大きく予想外だったらしい。端整な顔を歪め、目を見開いている。慌てた様子だとか、焦った様子は確認出来ない。ただただ、驚いたような顔。