6.
エヴァンがそういう問い掛けを投げつけたということは、きっと彼ならば自分のクラスの誰だろうが抹消しうるのだろう。野次馬の中に混じるAクラスの連中に動揺した様子は無い。優等生にして曲者揃いのAクラスをまとめているだけあって、担任のエヴァンはそういう情、というものに関して感傷以上の意味を抱かないようだ。
――エヴァンがエルバートの事情に気付いていないと勘違いしたデュドネが困ったように目尻を下げてフォローに入る。
「まあまあ、分かってるだろ、エヴァン。エルバートはクラスBの担任だ。教え子を手に掛けるような真似は出来ないんじゃないか?」
「・・・へぇ。僕にはよく分からない感性だねぇ。けど、ここでグズグズもしてられないし」
「・・・すまない」
エルバートを退かし、代わりにエヴァンがハッシュを引き摺り立たせる。さすがにこの場で《憑者》を処分するつもりはないようだ。ちらり、とエヴァンがエルバートを一瞥する。
「君は若いから、これで勘弁するけど――お前の場合だったら僕は見過ごすから。甘えようと思わないでくれよ」
「いやだな、エヴァン。俺のクラスに《憑者》なんているわけないだろ」
「・・・はぁ」
デュドネの脳天気さに心底疲れたような溜息を吐いたエヴァンは、喚く《憑者》をまるで荷物のように引き摺りながら、廊下の角を曲がって消えた。
「大丈夫だったかい、アイリス?」
「っ!」
はっとして我に返るとぎこちない笑みを浮かべる担任の顔があった。彼はどうやら随分とアイリスを気遣っているらしく、甲斐甲斐しく何も無かったかと尋ねてくる。
事実、今日はもう授業を受ける気がしないので、その旨を伝えようと声を発し――ようとして動きが止まった。喉がからからだ。極度の緊張からか、唇も上手く動かない。足も震えているような気がする。
「大丈夫、じゃ無さそうだ。今日の授業はもう受けなくていい。部屋に帰って休みなさい。さ、こっちだ」
教師に連れられて自室へ帰る――デジャブを感じた。が、前回アイリスを送ってくれたエルバートはまだ立ち直りきれていないらしく、先程までセレスティアが横たわっていた辺りを見つめていた。血溜まりだけが残るそれが、彼女の怪我の酷さを如実に物語っているようで、アイリスにはとても直視出来なかったが。