5.
騒ぎを聞いて駆け付けたのは同学年担任陣だった。つまり、デュドネとエヴァン。教師2人は驚いた顔こそ見せたものの、その後の対応は迅速だった。直ぐさまエヴァンがアイリスの隣に屈む。
「代わるよ」
「あ、あ・・・はい」
「デュドネ!この子、君のクラスの子だろう?後はよろしく」
クラスA担任の要請にデュドネは困った顔をした。彼の視線の先にはいまだエルバートに押さえつけられているハッシュの姿がある。。エヴァンはセレスの止血と治癒で精一杯だ。しかし、エヴァンが間に合った事で『延命措置』ではなく『現状維持』の状態に切り替わったのは大きい。
アイリスはと言えば、自分が大事に全身浸かっている事を自覚し、小さく震えていた。セレスは友人だったし、何より彼女が死んでしまうのではないかと頭が混乱する。
ちらり、とずっと目を逸らしたままだった綺麗な彼女へ視線を向けてみる。
「ごめん・・・オズ・・・」
「えっ?」
そんな言葉が聞こえた。思い返されるのは昨日の出来事だ。シャールカの部屋へ行く前、彼女とクラスAのオズウェルが話していた光景。
まだ何事か言葉を紡ごうとしていたセレスが盛大に噎せる。唇の端から一筋の真っ赤な鮮血が溢れだした。
「救護班が到着しました、道を空けてください!」
遠くから女子生徒の声が聞こえる。ようやく――遅すぎる程にようやく、救護が来たのだ。でも、けれど、どう見ても間に合わなかったようだが。
担架でセレスが運ばれて行く中、アイリスは確かに見た。もう、セレスの瞳がほとんど光を保っていなかった事。エヴァンの渋い顔を。
「離せッ!いつまで押さえつけてやがるッ!」
代わって、獣のように吠えたのはハッシュだ。とても人を1人刺した後の態度ではないが、もうここまで来れば認めざるをえなかった。
彼こそが――5人いるはずの《憑者》の1人目であると。
魔物陣営の勝利条件は《巻き戻し》以外の全ての人間を皆殺し駆逐し根絶やしにする事。その時に1人でも陣営側が生きていれば勝利。そうだとすると、この捨て石のような捨て駒のような殺戮行為にも説明がつく――ように思える。
けれど――
「・・・エルバート君・・・早くトドメを刺したらどうだい?」
エヴァンの冷たい視線がハッシュに突き刺さる。エルバートが困ったように目を伏せた事で、全てを悟った。
意外にも生徒に対する情が厚いエルバートは、自クラスの生徒をその手で抹殺する事など出来ないだろう、と。